花街妖恋
炎の中で
 夜半。
 けたたましい半鐘の音に、廓の静寂は破られた。

 このところの強風のお陰で、花街は客足も遠のき、どの店も早々に眠りについている。
 静まり返った花街の空が、真っ赤に染まっていた。

「火事か? 何だ、やけに火の回りが速い・・・・・・!」

 タツが通りに飛び出し、ざっと辺りを見て呆然となった。
 すでに花街は火の海だ。
 いくら木造の建物とはいえ、速すぎる。

「故意の付け火じゃないかい? 湯屋も廓の台所も、早めに火は落としてたはずだし」

 遣り手も様子を見に出てきたが、すぐに中に戻って遊女らを叩き起こしに行った。

 程なく花街全体が騒がしくなる。
 どの置屋からも、寝間着姿の遊女や男衆が飛び出し、大門目掛けて逃げ惑う。

 その様子を、どこかのんびりと眺めていた九郎助は、不意に妖気を感じて振り向いた。

「おお怖や。会うなりそんな睨むこともないだろうに」

 そこには一遊女のナリのおさん狐。
< 13 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop