花街妖恋
「さぁ、早く行け。お主にも恩はある。無事出られるよう、力を分けてやろう」

 ふわ、と九郎助が、手をタツの前に翳した。
 ぽかんと見つめるタツの前で、九郎助の手の平が、ぼわ、と光る。

 光が大きくなってタツを包んだのを確かめると、九郎助は身を翻して一気に階段を駆け上がった。

 タツはしばし九郎助の去った後を見送っていたが、ばりばり、と梁が軋む音に、我に返った。
 少し迷った末、入り口に向かって走り出す。

 そこへ、焼けた梁が落ちてきた。
 とても避けられない。

 覚悟を決めて目を瞑ったタツだったが、直後に襲うであろう衝撃が来ない。
 恐る恐る開けた目の前には、自身の真上に落ちてきた梁が、何故か粉々に砕けて足元に散らばっている。

 驚きながらも目に入った華龍楼の入り口に向かうタツは、己を避けるように、炎が道を開けるのに気づいた。

「主! よくご無事で!」

 外に出ると、遣り手が駆け寄ってきた。
 同時に身体を包んでいた光が消える。

「く、九郎助・・・・・・。あ、あ奴は・・・・・・」

 茫然と、すっかり炎に包まれている華龍楼を見上げるタツを、遣り手はただ怪訝な目で見つめた。
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