花街妖恋
 タツと別れた九郎助は、一目散に玉菊の部屋に飛び込んだ。
 もう廊下も室内も煙が立ちこめ、視界もままならない。

「玉菊! どこにおる!」

 叫びながら、部屋に踏み込む。
 奥のほうから、微かな咳が聞こえた。

 上級遊女の部屋は、三間からなる。
 奥までなど、通常は踏み込めないが、構わず九郎助は襖を引き開けた。

「玉菊!」

 窓に縋り付いている玉菊に駆け寄ると、驚いたような、だがすぐに嬉しそうな顔になって、縋り付いてきた。

「ああ、まさか来てくれるとは。このまま焼け死ぬしかないと思ってたのに」

 何とか窓際まで移動したものの、やはり動けなかったのだろう。
 九郎助は玉菊を抱き寄せた。

「わしはお主に助けられた。恩人を、みすみす見殺しにはできん」
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