花街妖恋
 玉菊を抱え上げ、すぐに出ようと振り向いた九郎助の顔が険しくなる。
 九郎助と一緒に進んできたように、すでに元来た道は火の海だ。

 ち、と小さく舌打ちし、九郎助は窓辺に戻った。

「もう出られないね・・・・・・」

 腕の中で、玉菊が呟く。

「火事で死ぬのは怖いけど。でも九郎助様が来てくれて良かった。遊女なんて、所詮一人で死んでいくものだって思ってた。来てくれたお陰で、一人じゃなくて済むもの」

 でも巻き込んでご免ね、と笑う玉菊の肩を、九郎助は少し強く掴んだ。

「何を言うておるのじゃ。先も言ったように、お主は見殺しにはせん」

「でも。私だってさっき言ったけど、もう出られないよ」

 そして、少し不満そうな表情になって、九郎助を見上げる。

「ねぇ。こんな火の中を助けに来てくれたのは、私があなたの恩人だから?」
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