花街妖恋
 玉菊の言葉の意味がわからず、九郎助は眉を顰める。
 玉菊は、そんな九郎助の胸を押して、彼から離れる。
 九郎助の助けがなければ立っていられない玉菊は、その場に座り込んだ。

「何をしておる。死ぬ気か?」

 玉菊の腕を掴んで言うが、彼女はじっと九郎助を見つめるだけで動かない。

「あのとき倒れているあなたを助けなかったら、私はここで一人死んでいくところなのかしら」

「玉菊!」

 九郎助も玉菊の前にしゃがみ込んで、彼女の両肩を掴むが、玉菊は静かな声で続ける。
 廓のあちこちで、建物の崩れる音が響き始めた。

「恩だけで命を捨てるなんて、九郎助様も馬鹿なお人ね」

 でもありがとう、と微笑んだ玉菊の目から、一筋涙がこぼれた。
 九郎助の心に、熱いものがこみ上げる。

 思わず九郎助は、玉菊を強く抱きしめていた。
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