花街妖恋
「恩があるのは事実じゃ。でもそれだけではない。何故かはわからぬが、お主は死なせたくない」

 腕の中の遊女を、守りたいと強く願う。
 それが何故なのかは、まだわからないが。

 玉菊は驚いたように、腕の中で身体を強張らせている。
 男のあしらいなど慣れているであろう遊女にしては、初心い反応だ。
 玉菊自身も、そんな自分に戸惑った。

「死なせたくないって。私だって死にたくないけど、もう無理よ」

 腕の中で、玉菊が哀しそうに言う。
 九郎助は顔を上げた。
 もうここも、程なく崩れ落ちよう。

---くそ。この程度の火も防げぬとは。このままここで玉菊を守ることは、難しいかもしれぬ---

 普通であれば、どのような炎も自在に操れる。
 だが今は、前のおさんとの戦いで消耗した力が戻っていないところへ、さらにタツにも力を分けてしまった。
 火を操る力はない。

 みしみしと、二人のいるところも軋みだした。
 玉菊が、ぎゅっと九郎助にしがみつく。
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