花街妖恋
「そのように怯えずともよい。心配はいらぬ」

 九郎助は、天井を見上げた。
 にやりと笑う。

「でも・・・・・・」

 泣き出しそうに震える玉菊は、次の瞬間、はっとした。
 九郎助の身体が、淡い光を放っている。
 抱かれている己も光に包まれ、そのときになって初めて、玉菊はあまり熱さを感じていないことに気づいた。

「お主のことは、必ず守る。ここを切り抜ければ、お主は太夫として、それこそこの花街一の道中を披露できよう。お主はこの黒狐・九郎助が惚れた、唯一の遊女じゃからな」

 目を見開く玉菊に、九郎助は不敵に笑う。
 その姿は、ただの男衆どころか、ただのヒトとも思えない。
 近づくのさえ恐れ多いほどの神々しさ。



 見惚れる玉菊の前で、九郎助は一匹の大きな黒い狐に変わった。
 身体全体で、彼女を包み込む。

 黒い毛並みに包まれた瞬間、ぐいっと宙に浮いた気がしたが、ふわふわとした心地好い感触に、玉菊は、ふっと気を失った。
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