花街妖恋
 あの火事の後、目を覚ましたのは馴染みの茶屋だった。
 酷い火事だったが、皆軽い火傷程度で、死者は出なかったと、タツが教えてくれた。

 ただ一人、九郎助の姿だけが消えた、と。

「玉菊を助けるのが、精一杯だったんだねぇ」

 そう言って遣り手などは目頭を押さえたが、タツは神妙な顔で黙っていた。

 人払いをした後、玉菊と二人になったところで、タツが言ったところによると、玉菊は花街の端の、小さな空き地に倒れていたらしい。
 周りは焼け落ちていたのに、そこだけは何故か何事もなかったような、青々とした草の上に、そっと寝かされていたのだそうだ。

「お前は部屋にいたのだろう? 確かに九郎助が飛び込んでいったが、すでに崩れ落ちる直前だ。なのにお前は、火傷一つ負っていないのだよ」

 玉菊よりも前に店から逃げ出した遊女などのほうが、火傷を負っている。

「私も九郎助と一緒に、お前を助けに店に入った。けど階段下で、九郎助に追い返された。あのとき、普通なら私は死んでいたよ」

 言いながら、タツは己の身体に視線を落とした。
 彼も無傷である。
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