花街妖恋
『お主が、人を喜ばすようなことを提案するとは』

「馬鹿言ってんじゃないよ。それであんたとあの太夫が上手くいったら、それからが私の、ほんとの出番なんじゃないか」

 つん、とおさんはそっぽを向く。
 九郎助も、ふん、と鼻を鳴らした。

 ふわ、と一瞬風が吹いたかと思うと、九郎助が祠の上に現れる。
 だがその姿は黒い狐で、淡い陽炎のように頼りなげだ。
 常人には見えないであろう。

「随分弱ったもんだね。火伏せの狐ともあろうものが、情けない姿だ」

『誰のお陰だ』

 ぎろりと睨まれ、おさんは慌てて視線を逸らす。

『そもそもヒトと結ばれようとは思っておらぬ。そんなこと、お主だって重々承知の上じゃろ。色恋に関しては、誰よりもお主がよぅわかっておるはずであろうが』

 おさんはちらりと九郎助を見、しゃがみ込んでため息をついた。

「・・・・・・つまらない」

『そうであろうな。・・・・・・でも、これで良いのだ』

---わしはこれからも、ここで玉菊を見守り続けよう---

 九郎助は満足そうに小さな祠を見、すっかり小さくなった太夫道中を見送った。


*****終わり*****

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