両想い【完】
だが、ベンチは浮かれてない、なぜだ?
浮き足立つのは良くないが、誰も笑顔ではない。
「葵君達…
勝ってるのに不思議な雰囲気でしょう?」
俺の疑問が感じ取れたのか、美愛が話しかけてきた。
試合中は『葵くぅん!がんばれぇ~』とかなり珍しい大声で応援していたが、今は西中のやつらと同様、真顔だ。
「あのね、相手のベンチに選手が二人、
みんなと離れてアップしてるの見える?」
「ん~?あっ、あぁ分かった、ってあれ…
本来レギュラーのやつ、か?」
「うん、分かるよね、祐君には。
あの二人が入ったら…試合が変わるの。
葵…頑張れ……」
美愛の言葉は最後は、祈るような…独り言に変わっていた。
相手のその体格のいい選手二人が輪に交じり、円陣を組み始めた。
俺の拳にも知らないうちにグッと力が入る。
『葵…負けるなよ…』そう、心で言ってピッチを見つめた。
***
後半が始まり直ぐに交代したうちの一人、背番号7が葵の裏をかいてパスをだし、もう一人の4がキープ、そのままシュートに持ち込み…決めた。
速い…葵だってかなりのスピードが出るし先読みも鋭いところをつく。
が、葵は同レベルの仲間が居ない…