Snow Drop Trigger
「……有り得ない」
……有り得ないだろ、普通。
ネックレスのチャームが一瞬にして細身の剣になるなんて。
とうとう俺の頭もファンタジー路線に走ったかと疑いたくなる。
だが現状は白く輝いている剣を持った、俺に酷似した人物が、俺を見ている。
今は視線にあの感情は無いようで、無表情で俺を見ている。
その人物は、剣を俺に向けた。
本日二度目の凶器を向けられる俺は、またもや背中に冷や汗が伝った。
いや、凶器を向けられるのに慣れるのも可笑しな話なのだが。
固唾を飲みながら数センチ先にある剣の先を見ていたら、その人物が口を開いた。
「お前は勘違いをしているようだな」
「は?」
「俺はお前でもないし、ましてやお前も俺ではない」
「え……?」
その人物が言っている事は分かっているのだが、如何せん現状の非現実さが俺の思考に酷く影響しているようだ。
この目の前の重力を見ていると、もう一人其処に俺が居るような錯覚をどうしても覚えてしまう。
悠然にその場に立ち、黒いローブを靡かせて白く輝く剣を持つ人物。
尻餅をついたような形で床に座り、ガラスの破片で怪我を負った俺。
だが、女児に刺される前に女児を弾き飛ばした事には少しながら感謝を述べなければならないだろう。
「あの、ありがとうご」
「死にたいならそこで勝手に死ね」
「…………は?」
感謝の言葉を遮ったのは、俺に酷似した人物のそんな発言だった。
俺を一瞥して吐き捨てるように言ったその人物は、黒いローブを翻して白い剣をいきなり振りかざした。
振りかざした先は、先程までその人物の後方だった場所だった。
金属と金属がぶつかり合うような音が響くと、黒いローブの人物は俺の方へ一歩下がって白い剣を片手に襲いかかってきた人物を見据える。
舞うように優雅で絵のようなその振る舞いに、俺はぼんやりとそれを見ているしか出来なかった。
それにしても、感謝の言葉に対して
「死にたければ勝手に死ね」
なんて如何なものか。
別に死にたい訳では無いのだが。
「俺は、お前を守る事なんぞ毛程も考えてない」
「え」
「逃げたければ逃げろ。
死にたければ勝手に死ね」
白い剣を構える人物は俺と同じ声で言い捨てる。
弾き飛ばされた筈の女児があまり目立った怪我も無く暗闇から歩いて来る。
あどけないただの女児は、今はただ目の前の敵を排除する為だけに動く操り人形のように凶器を片手に黒いローブの人物と間合いを取っていた。
「……化け物が」
無感情のような、それでいて何処か冷たい感じを受ける黒いローブの人物の発言を機に、女児は凶器を構えて彼へと突っ込んでいった。