Snow Drop Trigger
その女児の攻撃を難無く避ける彼を見つつ、俺はその光景をぼんやりと眺めていた。

……ちょっと待て。

彼が避けると、俺に凶器を持った女児が向かってくる事になるのだが。

それに気が付いた俺は慌てて逃げようと試みるが、身体が上手く動かない。

足を縺れさせながら逃げようと動こうとした刹那、俺の頭上で壁が抉れるような音がした。

上から何かが降ってきたが、頭上を見ずとも状況が芳しくない事は容易に理解出来る。

顔にかかる、女児のプリーツスカートを見ながら俺は視線を上へ向ける。

そこには虚ろな瞳をした無表情の女児が、壁に包丁を突き刺していた。

このシュチュエーションはもはや、女児が好きな人にとっても、好きだからと言って許す許容範囲には入らないのではないか。

……まあでも、そういう類の人は許容範囲に入るのかもしれない。

呑気にそんな事を考えているも、勿論先程の頭上から落ちてきたのは抉れた壁の欠片であり、ただの包丁と女児がタッグして成せる技ではない。

壁にめり込む包丁を女児が抜くだろう間に逃げた方が良さそうだ。

だがしかし、俺の予想は大きく裏切られる事になる。

逃げる間もなく壁から造作もなく引き抜いた凶器をちらつかせながら、女児は俺をその虚ろな瞳に映す。

躊躇なんて無いだろう。

彼女は絶対にこの包丁を、俺へと突き刺す。


「あ」


死んだな、これ。


振りかざされる凶器から目を離せなくなってしまう。

逃げろと脳が警報を鳴らすのに、身体は全く言う事を聞いてはくれない。

間近に迫った死を待つしか出来ないのかと凶器が俺に突き刺さるまでを目で追っていた。

俺に凶器が突き刺さる後少しという所で、女児はまたしても俺の目の前から姿を消した。

ふわりと舞う雪が自身の瞳へ映った刹那、俺ではない俺の声が響いた。


「お前の相手は俺だ。化け物」


吐き捨てるような言い方をする声の方へ顔を上げると、白い剣を片手にフードを靡かせる人物が悠然と立っていた。

その人物は壁に叩きつけられても尚、虚ろな瞳でこちらを見て立ち上がろうとする女児を呆れたような、それでいて憎らしいような複雑な表情を浮かべて呟いた。


「そろそろ終わりにしよう」


そう言って白い剣を片手に、刃部分をもう片方の手で下から上へなぞる。

するとその人物の周りには真っ白な粉雪が舞い始めた。

幻想的で非現実なのに、何処か目を離せなくなる。

態勢を整え直した女児がその人物へ凶器を握りながら向かってくる。
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