Snow Drop Trigger
「でも、あの子は何も悪くないじゃないか」
「お前は殺意を向けた相手に情を見せるのか?」
嘲笑うようにそう呟いた彼は、さらに俺を挑発する。
「現状を甘く見過ぎているようだな」
だが、挑発に乗る事も声を荒げる事も出来ない俺に対して彼は呆れたのか溜息を吐いた。
彼が動く度に、ガラスの破片が砕ける小さな音が響く。
「"アザミ化"した人間を元に戻す事は不可能だ」
冷たく言い捨てるような言い方。
それは初めて出てきた単語に疑問を浮かべるより先に、俺の背筋に悪寒を走らせた。
ハッキリとそう言い放った彼は、俺へさらに近寄って来る。
その度に足元で砕ける破片の音が、やけに耳に届く。
「"アザミ化"した人間は、俺が“還す“しかないんだ」
目の前で止まった彼は、俺の目線まで腰を降ろし、真っ直ぐに俺を見続ける。
その視線はとても冷たかった。
彼は視線で人を凍てつかせられるのではないだろうか。
いつも以上に動悸が激しくなり、周囲に聞こえるのではないかというぐらいに鼓動の音が五月蝿く感じた。
そんな俺を見る彼は俺を見下すように立ち上がる。
「お前がこの先、俺の邪魔をするのならば……」
そう言った彼の片手には先程の細身の剣が握られていた。
それを彼は、躊躇も無しに俺の喉元へ突き付ける。
うっかり唾を飲み込んだ瞬間に少し刺さりそうなぐらいの距離だ。
「その時は、容赦はしない」
言葉と共に消える剣に安堵と動悸が激しくなるのを感じた俺を余所に、彼はフードを被り直して俺に背を向けた。
刹那、砕けた窓から二つの影が入って来るのを感じた。
それは彼の目前で畏まる。
ガラスだらけの地面に膝を立てるその姿は、王の目前で喋る時の家来のような雰囲気だった。
どちらともフードを深く被っていて顔は見えないが、口元だけは何とか見える状態であった。
すると俺から向かって右側の人物が、口を開いた。
「目標、逃走した模様です」
「アイツ、逃げ足だけは一丁前ですからねー」
「爆発物の設置のような物も特に見当たりませんでした」
「てか本当に爆弾仕掛けてたのかもわかんないよねー」
右側の人物の発言に続けて左側の人物も口を開いた。
どちらとも中性的な声音なので、性別さえも分からない。
「此処に居る意味はもう無いな」
突然現れた二人の人物の発言を聞いた彼はそう言い放ち、ガラスの無い窓へと歩き出した。
この場から去ろうとする彼に、俺は問い正したかった。
何故あの子は消えたのか。
俺と酷似した容姿を持つ彼は誰で、そして何をする為に現れたのか。
"アザミ化"とは何なのか。
とにかく色々聞きたい事は沢山ある。
だが、ありすぎてまず何から聞いて良いのか分からないのだ。
せめて名前だけでもと、俺は疑問を投げかけた。
窓枠に手をかけた彼は、最後に俺にこう言う。
「……オウノメ スバル」
「っ⁉」
それは、館内放送で名乗っていたものと同じだった。
彼がこの騒ぎの犯人なのかと思ったのも束の間、次の発言を聞いて俺の思考は停止した。
「この世界に希望を。
そして報復をも越える、奇跡を」
言い終えた瞬間に窓から姿を消した彼に続き、二人も其処から姿を消した。
窓から飛び降りたのかと焦って窓枠に手をかけ外の風景を見る。
だが地上では赤いランプが乱舞し、人が集まっている、普通の街並みが広がっていただけだった。
外は相変わらず雪が降っている。
今になって寒さと殺意を向けられた緊張感に押し潰されるような感覚を覚え、俺の意識は突然途切れた。
Snow Drop Trigger
Ep01* - fin -
「お前は殺意を向けた相手に情を見せるのか?」
嘲笑うようにそう呟いた彼は、さらに俺を挑発する。
「現状を甘く見過ぎているようだな」
だが、挑発に乗る事も声を荒げる事も出来ない俺に対して彼は呆れたのか溜息を吐いた。
彼が動く度に、ガラスの破片が砕ける小さな音が響く。
「"アザミ化"した人間を元に戻す事は不可能だ」
冷たく言い捨てるような言い方。
それは初めて出てきた単語に疑問を浮かべるより先に、俺の背筋に悪寒を走らせた。
ハッキリとそう言い放った彼は、俺へさらに近寄って来る。
その度に足元で砕ける破片の音が、やけに耳に届く。
「"アザミ化"した人間は、俺が“還す“しかないんだ」
目の前で止まった彼は、俺の目線まで腰を降ろし、真っ直ぐに俺を見続ける。
その視線はとても冷たかった。
彼は視線で人を凍てつかせられるのではないだろうか。
いつも以上に動悸が激しくなり、周囲に聞こえるのではないかというぐらいに鼓動の音が五月蝿く感じた。
そんな俺を見る彼は俺を見下すように立ち上がる。
「お前がこの先、俺の邪魔をするのならば……」
そう言った彼の片手には先程の細身の剣が握られていた。
それを彼は、躊躇も無しに俺の喉元へ突き付ける。
うっかり唾を飲み込んだ瞬間に少し刺さりそうなぐらいの距離だ。
「その時は、容赦はしない」
言葉と共に消える剣に安堵と動悸が激しくなるのを感じた俺を余所に、彼はフードを被り直して俺に背を向けた。
刹那、砕けた窓から二つの影が入って来るのを感じた。
それは彼の目前で畏まる。
ガラスだらけの地面に膝を立てるその姿は、王の目前で喋る時の家来のような雰囲気だった。
どちらともフードを深く被っていて顔は見えないが、口元だけは何とか見える状態であった。
すると俺から向かって右側の人物が、口を開いた。
「目標、逃走した模様です」
「アイツ、逃げ足だけは一丁前ですからねー」
「爆発物の設置のような物も特に見当たりませんでした」
「てか本当に爆弾仕掛けてたのかもわかんないよねー」
右側の人物の発言に続けて左側の人物も口を開いた。
どちらとも中性的な声音なので、性別さえも分からない。
「此処に居る意味はもう無いな」
突然現れた二人の人物の発言を聞いた彼はそう言い放ち、ガラスの無い窓へと歩き出した。
この場から去ろうとする彼に、俺は問い正したかった。
何故あの子は消えたのか。
俺と酷似した容姿を持つ彼は誰で、そして何をする為に現れたのか。
"アザミ化"とは何なのか。
とにかく色々聞きたい事は沢山ある。
だが、ありすぎてまず何から聞いて良いのか分からないのだ。
せめて名前だけでもと、俺は疑問を投げかけた。
窓枠に手をかけた彼は、最後に俺にこう言う。
「……オウノメ スバル」
「っ⁉」
それは、館内放送で名乗っていたものと同じだった。
彼がこの騒ぎの犯人なのかと思ったのも束の間、次の発言を聞いて俺の思考は停止した。
「この世界に希望を。
そして報復をも越える、奇跡を」
言い終えた瞬間に窓から姿を消した彼に続き、二人も其処から姿を消した。
窓から飛び降りたのかと焦って窓枠に手をかけ外の風景を見る。
だが地上では赤いランプが乱舞し、人が集まっている、普通の街並みが広がっていただけだった。
外は相変わらず雪が降っている。
今になって寒さと殺意を向けられた緊張感に押し潰されるような感覚を覚え、俺の意識は突然途切れた。
Snow Drop Trigger
Ep01* - fin -