Snow Drop Trigger
目が覚めた時、初めに認識したのは在り来たりながらも真っ白い天井だった。

それから左に視線を移すと、仕切りになっているカーテンのレールと純白のカーテンがあった。

やけに鼻につくエタノールの香りと点滴のチューブが見えれば、もう此処が何処だか見当がつく。


「病院……」


俺は誕生日に複合商業施設で爆弾テロ犯と同姓同名の、俺と同じ顔をした人物に出逢った。

その前に女児に刃物で襲われたりもしたが、あれはもしかしたら悪い夢だったのかもしれない。

溜息混じりに身体を起こしてみると、案外すんなりと起き上がれた。


「点滴とか大袈裟だろ……」


上半身だけを起こした俺は、改めて辺りを見回してみた。

右腕に点滴の針が刺さっている。

針に繋がるチューブを目で辿ると、点滴がぶら下がっている足元にコロコロが付いている医療器具があった。

品名が分からないのでとりあえず医療器具と呼ぶ事にした。

真っ白なのは天井とカーテンだけではなく、床も壁も同様だ。

点滴をぶら下げている医療器具の後ろに、荷物を入れる為の棚が設置されていた。

棚には出し入れ可能のテーブルのようなものが付いていて、小型の液晶テレビと俺が持ち歩いていたリュックサックと俺の携帯端末が置いてあった。

床には俺が履いていたスニーカーと、『都立 恒原病院』と手描きで書かれたスリッパがある。

目の前には針が刺さっている右手の他に、黒いマジックペンが左手の近くにあった。

そして真っ白な布団とその上に少し大きめのタブレット端末があった。

タブレット端末の液晶の上部分には雪の結晶と雫のロゴが入っている辺り、やはり『Snow Drop』の人気は絶大のようだ。

液晶に指を触れると、立体的に映されるホーム画面。

俺の誕生日から三日経っている所を見れば、俺はその間ずっと病院で意識を失っていたのだろう。

とりあえず病院に居る理由も分かった所で、ホーム画面にあるインターネットアイコンを押してインターネットを繋げる。

検索画面のニュースに三日前のあの出来事が書いている記事が無いかと液晶をスライドさせていく。


「『複合商業施設襲撃事件』……」


その記事の題名を指でタップすると、浮き上がる文字と写真。

かいつまんで記事の内容を説明すると、三日前の複合商業施設で発生した事件は6階の俺が倒れていたフロアの大半の窓の破損とフロア内の損壊、館内放送のジャックと爆弾テロ宣言した『オウノメ スバル』の捜索開始、負傷者は6階に取り残されていた男子高校生1名という奇跡的な被害の少なさを取り上げていた。


「負傷者の男子高校生は俺の事か」


まさか自分が、記事でいう負傷者になるなんて思っていなかった。

名前が載らなかっただけマシだとは思うが、疑問は募るばかりだ。
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