Snow Drop Trigger
「でも君は運が良いよ。
強化窓ガラスを浴びても外傷はそんなに無かったし」

「えっ……?」


彼が現れた時に破られたあれは、強化ガラスだったのか。

そんな強化ガラスを全身に浴びても何ら外傷は見当たらないのだが、樋高さんが言った通りにただ単に運が良かっただけだろう。


「今日から二日間は安静にね。
明日もまた診察してみて異常が無ければ退院手続きしていこう」

「ありがとう、ございます……」

「これは今日の分の薬ね」


タブレット端末で事件の記事を開いたままの画面に視線を向けると、其処には薬の説明の画面が映されていた。

もっと詳しく見たかった気持ちもあったが、樋高さんの薬の話も大切なものだし、俺は樋高さんの話に耳を傾けた。


「あの、本当に……」


『本当に被害者は俺だけだったんですか?』と問いかけようと途中まで言いかけたが、それを遮るように部屋の扉が開いた。

突然の誰かの侵入に驚く俺の視界に初めに見えたのは見慣れた黒髪の少女だった。

首元に白と黒をメインとした至ってシンプルなチェック柄のマフラーに、学校指定の制服。

顔を見る為にほんの少し動くと反動で痛みは身体に来たが、俺は彼女の名前を呼んだ。

それに反応した彼女は瞳に涙を浮かばせながら唇を噛み締めて俺の名前を呼んだ。


「心配……したんだから。
正恭の馬鹿……!」


今にも涙を瞳から零れさせんばかりに涙ぐむ彼女、涼弥は俺の側に置いてあったパイプ椅子に座って俺と改めて視線を交わらせる。

その時、ポロリと瞳から零れた涙をキッカケに涼弥はポロポロと涙を零した。


「馬鹿正恭……っ」

「涼弥、ごめんな……」

「意識戻ったから良かったけど。
あんま心配掛けんなよな」


そう言って果物の入ったバスケットを片手に康介が、涼弥の後方に姿を現した。

色とりどりの果物の入ったバスケットを俺のリュックサックの横に置いた康介は涼弥の後方に戻り、相変わらずの笑顔を浮かべた。


「康介……、サンキュ」

「桃瀬だって心配したんだからねー!
馬鹿あほ正恭ぁー!」


桃瀬の声音が聞こえた瞬間に俺の顔面にふわふわとしたものが押し付けられた。

だがものの十秒で離れたものを視界に入れる前に、桃瀬が膨れっ面で俺を見ていた。

彼女が片手に持っている茶色の毛のテディベアのぬいぐるみが先程のもふもふの正体だろう。


「桃瀬……」

「正恭、早く良くなれ。
俺達、正恭居ないとつまらない」


桃瀬の後方で呟くように発言する悠太は、俺を再度見て優しそうな笑みを浮かべた。

そんな中、樋高さんは俺達に気を遣ってか俺にアイコンタクトをしてそのまま部屋から出て行ってしまった。


「悪い、皆に心配掛けて……」


涼弥がハンカチで自身が零した涙を拭きながら、俺の左手を握った。

少しだけ震えている彼女の手や友人達の発言は、本当に俺を心配していたんだと改めて実感した。


「いやー、本当に心配したよー」

「本当に運が良かったんですね」


そんな時だった。

聞きなれない声音が、友人達のさらに後方から聞こえて来たのは。
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