Snow Drop Trigger
街中に鳴り響くクリスマスソングがやけに身に染みる、そんな15年前の冬時期に俺は生まれた。

……と言っても、15年前の誕生時なんて正確に覚えている訳は無い。

何より、クリスマスソングや街中のイルミネーションにも特に興味も無い。

街はすっかりクリスマスに向けてのイルミネーションやら飾りがちらほらと伺える。

複合商業施設が近いから商戦的にはクリスマスモードにした方が利益があるんだろうと、我ながら夢の無い事ばかり考えるようになった今日この頃。

そんな俺は只今、目の先に見える複合商業施設へと向かう為に街中のとある一角を歩いていた。

冷たい風が全身を掠める度に、縮こまる身体を懸命に動かしながら、巻いているマフラーに顔を埋めた。

やはり、寒いのは苦手だ。


「ま……や」


それにしても、この時期になると街中を歩く人々にカップルが多いのは良く見る訳で。

一肌恋しい季節だと実感するには、丁度良い光景だ。


「まさや」


早く複合商業施設へ着かないだろうか。

着いたら真っ先に店内に入って、この寒さから逃げよう。

店内に入って数秒で身体を包み込む、もとい掴んで離さないぐらいの心地良い暖房に早く煽られたい。


「……正恭(まさや)‼」

「…………何?」


いきなりの大声に右耳の鼓膜が生存危機を迎えそうになったのを御構い無しに、その声の主は不機嫌そうな表情を崩さずに俺を見ていた。

その場で何となく立ち止まってしまったが、寒いから早く店内に入りたい。

だが、どうやらそうもいかないようである。

声の主は不機嫌全開で俺を睨むと、小さいが分かりやすい溜息をついた。

溜息をついた瞬間に声の主の首元にかかっていたマフラーの片方が落ちたので、俺は何と無くソレを直す為に彼女に一歩近付いた。


「……正恭、狙ってやってる?」


狙ってる? 何が?

俺と頭一個分程の身長差のある彼女の黒い髪を、手で撫でる様に整え、そしてマフラーを巻き直す。

ソワソワとしているような態度に疑問を覚えるが、俺は彼女のマフラーを巻き直した後に歩き出す。

ぼんやりしていたのか、俺がいきなり歩き出す事を予想して無かったのか、彼女が慌てて駆け足で俺の横へ戻ってきた。


「狙ってるって、何が?」


息を少し切らしながら歩く彼女に、先程の疑問をぶつけてみた。

すると彼女は今度は俺を睨み、またもや溜息をついた。

今度は盛大に。


「あのねぇ、正恭。あんな事を女子の誰にでもやるから、変に好感を持たれるし相手も好感を持っちゃうんだよ?」

「まるで女子を手玉に取る性悪男みたいな言い方だな」


そんなつもりは全く無いんだけど。

何だろう、この酷い言われ様は。

苦笑を浮かべながら息を吐くと、寒さで息が白くなって空間へと舞い上がって溶け込んだ。
< 3 / 53 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop