Snow Drop Trigger
「んー。
割と今、ヤバイ状況だよね」
呑気にそう言いながら背伸びをする彼女の手には、油性のマジックペンが握られていた。
蓋を左手で開け、そのマジックペンで空中に何かを描く。
動かす度にキラキラと煌めくのは、小さな雪の結晶。
それが形どったのは、人間程度の大きさの、二体のピクトドラムだった。
ただ油性マジックで空中にピクトドラムを描いているだけなのに、きちんと具現化しているのも驚きだ。
だが突然、俺の腕を掴んで一体のピクトドラムへ触れさせる行動にも驚きだ。
ピクトドラムを形どった小さな雪の結晶が俺の手に反応すると、それは俺の姿へと変化した。
秋子さんももう一体のピクトドラムに触れると、それも彼女の姿へ変化した。
「今の内に逃げるよ」
「は、はぁ……?」
いまいち状況について行けていない俺の腕を引き、階段を駆け上る秋子さんの左横を、風を切るような音と共に何かが通過した。
秋子さんはそれを横目に見たのか、はたまた二階の廊下についた時点で壁に刺さっていた物体を見たのかは定かではないが大層驚いていた。
「あちゃー。
もう突破されたかぁ」
それを聞いて俺が振り返ると、ちょうど女子生徒が俺に向かって何かを投げてくるのが見えた。
俺の腕を勢い良く引っ張って進行方向を無理矢理変えながら、三階へと続く階段を駆け上る俺達。
踊り場に刺さったモノを横目に俺は、三角定規は鋭角じゃなくても刺さるものなのだと思った。
鋭角ならまだしも鈍角が刺さるという事はどんな腕力を持ち合わせているのだろうか。
「ちょっ⁉」
「⁉」
突然の秋子さんの短い言葉に気を取られていた俺が見たのは、秋子さんの背中と
前方に佇む虚ろな瞳の女子生徒であった。
秋子さんが立ち止まり、俺も彼女の背中にぶつからないように立ち止まる。
階段を駆け上って三階の廊下へと辿り着くも、虚ろな瞳の女子生徒達が阻むのは、その先の逃げ道。
だが周りに他の生徒が居ないのが、何よりも異様な光景だ。
二階の教室から"オウノメ スバル"を追って階段を下る筈だったのに、何故か屋上へと向かっている俺達。
その屋上へと向かう階段を虚ろな瞳の女子生徒達に阻まれている。
行く道を阻む女子生徒達をまじまじと見てみると、何処かで見た事があるような気がした。
「この人……」
彼女は、……いいや彼女達は、朝方絡んできた先輩方だった。
何故、先輩方が一体こんな事をしているのだろう。
何より気になるのは、複合商業施設で襲われた女児の瞳に似ているという事。
その現状を理解した刹那、嫌な予感しか脳裏を過ぎらなくなってしまった。
「流石に私も、これは厳しいな……。
強行突破しかないかな、……っと!」
そう呟いた秋子さんは、マジックペンの蓋を口に咥えながらソレを引き抜いた。
口にはマジックペンの蓋を咥えながらまた何かを描こうとするも、それを阻むように細長い何かを大量にこちらに投げてくる先輩方。
「!!」
俺は向かって来る大群の正体を理解した刹那、足が地面から離れた気がした。
振り返り俺を突き飛ばしているような態勢を取って微笑む秋子さんの姿に手を伸ばすも、俺の身体は後方へと重力に沿って倒れて行く。
その時、俺は気付いてしまった。
彼女……、いや、彼は俺を庇う為に階段に突き飛ばしたのだと。
「春矢君……!」
彼の名を呼ぶと、彼は少しだけ驚いたような表情を浮かべて微笑んだ。
だがその瞬間、彼の表情は苦痛に変わり、口から出た血液が空中へと舞い散った。
割と今、ヤバイ状況だよね」
呑気にそう言いながら背伸びをする彼女の手には、油性のマジックペンが握られていた。
蓋を左手で開け、そのマジックペンで空中に何かを描く。
動かす度にキラキラと煌めくのは、小さな雪の結晶。
それが形どったのは、人間程度の大きさの、二体のピクトドラムだった。
ただ油性マジックで空中にピクトドラムを描いているだけなのに、きちんと具現化しているのも驚きだ。
だが突然、俺の腕を掴んで一体のピクトドラムへ触れさせる行動にも驚きだ。
ピクトドラムを形どった小さな雪の結晶が俺の手に反応すると、それは俺の姿へと変化した。
秋子さんももう一体のピクトドラムに触れると、それも彼女の姿へ変化した。
「今の内に逃げるよ」
「は、はぁ……?」
いまいち状況について行けていない俺の腕を引き、階段を駆け上る秋子さんの左横を、風を切るような音と共に何かが通過した。
秋子さんはそれを横目に見たのか、はたまた二階の廊下についた時点で壁に刺さっていた物体を見たのかは定かではないが大層驚いていた。
「あちゃー。
もう突破されたかぁ」
それを聞いて俺が振り返ると、ちょうど女子生徒が俺に向かって何かを投げてくるのが見えた。
俺の腕を勢い良く引っ張って進行方向を無理矢理変えながら、三階へと続く階段を駆け上る俺達。
踊り場に刺さったモノを横目に俺は、三角定規は鋭角じゃなくても刺さるものなのだと思った。
鋭角ならまだしも鈍角が刺さるという事はどんな腕力を持ち合わせているのだろうか。
「ちょっ⁉」
「⁉」
突然の秋子さんの短い言葉に気を取られていた俺が見たのは、秋子さんの背中と
前方に佇む虚ろな瞳の女子生徒であった。
秋子さんが立ち止まり、俺も彼女の背中にぶつからないように立ち止まる。
階段を駆け上って三階の廊下へと辿り着くも、虚ろな瞳の女子生徒達が阻むのは、その先の逃げ道。
だが周りに他の生徒が居ないのが、何よりも異様な光景だ。
二階の教室から"オウノメ スバル"を追って階段を下る筈だったのに、何故か屋上へと向かっている俺達。
その屋上へと向かう階段を虚ろな瞳の女子生徒達に阻まれている。
行く道を阻む女子生徒達をまじまじと見てみると、何処かで見た事があるような気がした。
「この人……」
彼女は、……いいや彼女達は、朝方絡んできた先輩方だった。
何故、先輩方が一体こんな事をしているのだろう。
何より気になるのは、複合商業施設で襲われた女児の瞳に似ているという事。
その現状を理解した刹那、嫌な予感しか脳裏を過ぎらなくなってしまった。
「流石に私も、これは厳しいな……。
強行突破しかないかな、……っと!」
そう呟いた秋子さんは、マジックペンの蓋を口に咥えながらソレを引き抜いた。
口にはマジックペンの蓋を咥えながらまた何かを描こうとするも、それを阻むように細長い何かを大量にこちらに投げてくる先輩方。
「!!」
俺は向かって来る大群の正体を理解した刹那、足が地面から離れた気がした。
振り返り俺を突き飛ばしているような態勢を取って微笑む秋子さんの姿に手を伸ばすも、俺の身体は後方へと重力に沿って倒れて行く。
その時、俺は気付いてしまった。
彼女……、いや、彼は俺を庇う為に階段に突き飛ばしたのだと。
「春矢君……!」
彼の名を呼ぶと、彼は少しだけ驚いたような表情を浮かべて微笑んだ。
だがその瞬間、彼の表情は苦痛に変わり、口から出た血液が空中へと舞い散った。