Snow Drop Trigger
「春矢君!」


苦痛に歪めた表情で俺が倒れる方向へ落ちる春矢君。

もうすぐ俺も、階段の何処かで頭を強打するだろうと覚悟を決めた。

今更受け身なんて取れる筈も無い。

よくよく考えれば、女児にも先輩方にも命を狙われ、階段から突き落とされたりと、最近は命の危機に陥りっ放しだ。

このまま落ちたら、良い感じに春矢君のクッション替わりになるか。

重力に沿って、階段の尖った部分へと頭が迫る。

だが、階段に頭を強打する前に、チラリと見覚えのあるシルエットが見えた。


その時、俺の頭に何かが強打した。


内部と外部からの痛みを受けた俺は、無惨に階段に落ちて行くのかと思いきや、何故か身体は目の前に居た春矢君へと向かっていた。

春矢君を良い具合に巻き込んで落ちる前の場所に戻れるのはいいのだが、思いきり誰かから頭を蹴られた感が否めない。


「っ……!!」


彼とぶつかり上手い具合に三階の廊下へ来たものの、春矢君が良いクッションになってしまった。

そんな彼は、「痛い」と割と平然に呟いた。

上半身だけ起き、着用していたブレザーを勢い良く脱いだ。

ブレザーには細長い亜鉛の塊が沢山突き刺さっていた。


「……シャープペンシルの芯は、こんなに刺さるんですね」


秋子さんの口調ではなく春矢君の口調で呟くと、ブレザーを表裏にしながら服に貫通したシャープペンシルの芯をまじまじと見た。

確かに、通常だったらこんなシャープペンシルの芯は無い。

むしろこのシャープペンシルの芯、亜鉛の塊じゃなくて鉄か何か丈夫な塊ではないのかと思ってしまう程だった。


「……シャツが真っ赤だ」

「大丈夫です。
そんなに痛くないので」

「早く、保健室に……!」

「暫くしたら治りますので、お気になさらずに」


真っ赤に染まっていたブラウスに身を包む春也君は、その平然さが逆に痩せ我慢なのではないかと思わせる程痛々しかった。

唖然と彼を見る俺に、春矢君は真っ直ぐな視線を投げかけてこう言った。

「……何故気付いたのですか?」

「え?」

「……俺の正体です」

「それは……」


彼等双子の見た目は本当に似ている。

むしろきっと慣れている人でもぱっと見では分からないかもしれないぐらい、声も顔の作りも似ている。


「ピアス、かな」

「……ピアス?」

「秋子さんになりすましても、それだけは外せない大事なものなんだろ?」


秋子さんは赤色、春矢君は青色のピアスをしている。

髪型で初めは見えなかったが先程見えたのでまさかとは思ったが、やはり正解だったようだ。
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