Snow Drop Trigger
「また命を狙われたのに、同情しているのか」

「他の先輩達も、殺したのか……」

「殺した?
馬鹿言うな」


先輩方を見ていた俺を鼻で笑う彼は、彼女達の命を奪ったであろうその白い剣を小さな雪の結晶にし、元の形であるネックレスへと戻した。

その刹那、周りから雪の結晶がフワリと上へと浮かんだ。

重力を無視したその現象の中、彼は俺に無表情で言った。


「彼女達は、"還した"だけだ」


彼は、そう言い残して階段を下り始めた。

話したい事が沢山あるのに、言葉が上手く出てこない。

このまま別れて良い筈がない。

まだ何も、聞いていないのだから。


「待ってください」


歩いていた彼を止めたのは言葉に詰まっていた俺ではなく、今まで黙っていた春矢君だった。

春矢君は滲むブラウスから血液を滴り落としながら彼へ近付いた。


「彼に、せめて"アザミ化"の事を話した方が良いかと思います」

「無駄だ」


春也君の発言を遮るように彼は言った。

そしてまた階段を上り、俺の目の前までやって来た。

俺と同じなのに何故、俺を忌み憎んだような瞳を向けるのだろう。

雪の結晶が周りに浮かんでいるのを察知した頃にはもう遅かった。


「スバル様!」


春也君が声を荒げたのを初めて聞いた。

まだ会って数日しか経っていないから特に珍しいとは思わなかったけれど、どうやらそんな悠長な事を考えている状況ではないようだ。

輝く剣を俺の首に突き付け、無表情で俺を睨む彼。


「"ユキシズク"さえ召喚できない無能に?」

「……彼は、既に"ユキシズク"を召喚できる筈です」

「コイツは、命を狙われても同情する唯のお人好しだ。
そんな奴に、プロジェクトの一部さえも教える事は出来ない」


俺の首元へ、再度その剣が迫る。

スライドすれば容易に首元から血液が流れるだろうというぐらい、その距離は近い。

全身を冷や汗が伝う中、彼は意地悪気に顔を歪ませる。


「コイツは、此処で始末しても良い。
"ユキシズク"は俺一人で充分だ」

「ですが、……彼はもう、他人事ではない所まで来ているんです」


春也君の言葉にピクリと反応する彼は、剣を元のネックレスへ即座に戻し、春也君へと振り向いた。


「……それはいつだ」

「二日前、そして今日。
"あの人"は、彼を狙っています」


春也君から目線を外し、窓の外の景色を見ていた彼は溜め息をついた。

そして俺を冷たい眼差しで射抜き、階段を下りながら呟いた。


「好きにすればいい。
ただし、それなりに命の危機に晒されるだろうがな」


彼はそう言い残し、その場を後にした。

外の雪がさらに強くなっている。

その場に残されたのは、唇を噛みしめる春也君と、話にイマイチついていけていない俺だった。


Snow Drop Trigger
episode 2
ーendー
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