Snow Drop Trigger
※ ※ ※ ※ ※

揺れる、胸まである長い髪。

俺と同じ栗色の髪のその女性を、俺は知っていた。

知っていた筈なのに、分からない。


『***ちゃん』


誰かの名前を、彼女は呼ぶ。

彼女は白いAラインのコートの中に、桃色のニットワンピースを着ていた。

俺に向かって彼女は話続ける。

彼女は一体、誰なのだろう。

視線を外すと、雪が地面に積もっている光景が見えた。


『約束だよ、***ちゃん』


不意に聞こえた彼女の声に顔を上げると、彼女の顔はぼやけて見えないが、優しい笑みを浮かべているような気がする。

途端に、彼女のピンクのワンピースと白いコートは赤に染まる。

地面に積もっている雪も、赤に染まる。

何が起こっているのだろう。

約束は、何なのだろう。

彼女は一体誰なのだろう。

何より、俺は彼女に何て呼ばれているのだろうか……。


「………正恭!」

「………………涼弥?」


ふと、現実に戻された俺の目の前に飛び込んで来たのは、冷たい机の表面。

横を向くと、リュックを持っている涼弥を筆頭に、いつものメンバーが揃っていた。

康介と桃瀬が何か話している最中、悠太はぼんやりと黒板を見ている。

亜衣は電子日報を操作しながら何かをひたすら打ち込んでいた。

ああ、確か今日は亜衣は日直だったっけ。

そんな事を考えていると、目の前に携帯端末の画面が飛び込んで来た。


「……盛大に寝てたな、俺」


そう言いながら背伸びをし、リュックに荷物を詰める。

涼弥が頬を膨らませて不機嫌そうにしていたので、人差し指で頬を押してみた。

すると彼女は目を見開き、顔を真っ赤にして俺を罵倒した。


「相変わらず酷いな、涼弥は」

「まっ、正恭が変な事するからだよ!」

「俺が悪いの?」


荷物を詰め終えてリュックを片手に持つとちょうど桃瀬と目が合ったので、彼女に聞いてみた。

すると桃瀬はドヤ顔で俺を指差した。


「つまりぃ、涼弥はギャップ萌えに萌え萌えしたんだよねーっ!」

「桃瀬、それちょっと使い方可笑しいぞ」


爽やかにツッコミをいれる康介に、桃瀬が食って掛からない訳がない。

すぐさま桃瀬の反論を受けた康介は、今度はぼんやりと黒板を見ていた悠太に話を振った。


「…………涼弥、ツンデレ」

「ちょっ!?
というか皆、私の事じゃなくて正恭の行動について話してよ!」
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