Snow Drop Trigger
今度は悠太に向かって反論する涼弥を、悠太は聞く耳持たずといった感じで受け流していた。

そんな中、プルプルと震えながら電子日報を持っていた亜衣が、とうとう口を開いた。


「ちょっと静かにしてて」

「………ごめん、亜衣」

「うわぁー、亜衣がおこだぁー……」

「これが所謂おこぷんぷんか」

「……亜衣、おこぷんぷん」


各自が謝罪とちょっとしたジョークを交える中、亜衣は一生懸命電子日報で何かをひたすら打ち込んでいる。

亜衣が持っている電子日報とは、これまた『Snow Drop』社製品のものだ。

病院にある端末と外見は同じものなのだが、中身は学校用に改訂してあり、これは各クラスに一つ必ずある。

簡単に言うと日直が、携帯端末自体に打ち込むタイプの日報である。

打ち込んで送信すれば各クラスの担任に送信され、電子日報を職員室まで持って行けばその日の日直の仕事は終了である。


「ちょっと文章がまとまらないから、もうちょい待ってて」

「じゃあー、桃瀬も手伝うよぉー!
こーゆーのは百人乗っても大丈夫ーって奴だよねー!」

「桃瀬、それ言うなら三人寄れば文殊の知恵だろ?」

「一フレーズも合ってないわよ、桃瀬……」

「……桃瀬、お馬鹿キャラ」


桃瀬の発言に康介が本当の使い方を教え、涼弥と悠太がツッコミをする。

それを聞いた桃瀬は、涙目になりながらツッコミを入れた二人に言い返した。


「えぇーっ!
皆ぁ、酷いよぉー!」

「はぁ、終わった……」


桃瀬がどうこうしてる間に、亜衣が電子日報の文章を打ち終わったようだ。

一息着いた所で送信ボタンを押し、日直の仕事終了だ。


「これでやっと遊びに行けるねっ!」


そう言った桃瀬のテンションは、さらに上がったようだ。

放課後に遊びに行くのは、俺の誕生日以来だ。

この数日、誕生日には女児に襲われ、次の日から3日も目を覚まさず、退院したらしたで先輩方に襲われる等、とても平凡とは言えない日常を送っていたのだ。

ようやく普通の日常が送れると思うと、とても気が楽だ。


「よぉーし、職員室にれっつごー!!」


元気一杯に桃瀬が職員室へと向かうのに着いて行く俺達。

ああ、放課後はこうでなくては。

何とも言えないこのささやかな日常が何処かとても嬉しいのだ。

そういえば授業中は最近、気が付いたら寝ているからノートは明日にでも康介と悠太に写させて貰おう。

……しかし、きちんと夜も寝ているのに何故こうも授業中にも寝てしまうのか。

それに最近、夢の中に誰かが浮かび上がる。

まるでその人が夢の中に俺を誘い込んでいるような……。


「…………そんな、無いか」

「正恭、何か言った?」

「いいや」

「ふーん。
……変な正恭」


涼弥に独り言を聞かれてしまったが、何とか受け流す事が出来た。

しかしもう、あの夢の中にいた人がどんな人だったのか思い出せない。

まあ、夢の内容なんて起きたら覚えてないし、そういうものなんだと思う。
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