Snow Drop Trigger
※ ※ ※ ※ ※

職員室に電子日報を渡しに行き、ようやく靴箱へと辿り着いた俺達。

今の時間帯は殆どの生徒が帰宅している為、あまり生徒の人影はないのだが、靴箱には先客が居た。

それは、靴箱に向かって何やら念をかけている女子生徒と、その後ろで本を読む男子生徒。

二人の容姿は酷似しているのだが、この光景は少し異様だった。


「あれぇー、秋子さんー?
何してるのぉ?」

「おぉ、桃瀬ちゃんに皆さん!
あらあら、皆様お揃いで何してんの?」

「それはこっちの台詞なんだけど、靴箱で何かあったの?」

「……この馬鹿は転送機以外で、靴箱から靴を取り出そうとしているんです」


涼弥の疑問に、何やら難しそうな本を秋子さんの後ろで読んでいる春也君が答えた。

それを聞いた康介は、苦笑しつつ説明をする。


「最近は何処も、専用の転送機から個人のみが取り出せるようになってるから、靴箱を直に開けるのは無理だぞ?」

「えぇええー、そーなの!?
バレンタインとかどーすんの!?
靴箱にいれらんないよ!?」

「そういうのも転送機に転送させれば勝手にやってくれるよー」


ちなみに転送機とは、各校舎の靴箱に4つ程設置してあり、転送機で転送出来るのは個人の私物のみなのでプライバシー的にも安心である。

ただ、他人に荷物を転送する事も出来るので、バレンタインの時などにこの転送機でチョコレートをこっそり送る女子生徒達も多い。

亜衣が自分のスリッパを転送機で転送し、通学靴を転送させてもらうのを見ていた秋子さんは、大げさに亜衣の頭を撫でた。

「物知りだねー。
ちなみに亜衣ちゃんはやった事ある?」

「わっ、私!?
いやいや、やった事ないよ!」

「亜衣と涼弥と桃瀬はぁ、直に渡す派だよぉー!」


亜衣の次に通学靴を転送機で転送してもらった桃瀬がニヤニヤしながらそう言うと、涼弥と亜衣が顔を真っ赤にして桃瀬に詰め寄った。


「ちょっと、桃瀬っ!」

「やだぁー、涼弥ってばそんなに怒ったら駄目だぞぉ!」

「涼弥、桃瀬が買うクレープに辛子入れようよ。
それが絶対良いわ」

「亜衣まで桃瀬を虐めるのぉ!?
やだやだ、辛子はいやだぁーっ!!」


騒がしい靴箱での会話に、不意に春也君が口を開いた。


「……所で皆さん、お揃いで何方へ向かうんですか?」

「俺達は今から遊びに行くんだ」

「おぉ!
それは所謂"買い食い"って奴っすね!」

「……それを言うなら"寄り道"の方が近いかと」


春也君の疑問に俺が答えると、間髪をいれずに秋子さんが食いついてきた。

桃瀬がそれを聞いていない筈が無く、この後二人をハイテンションで遊びに誘ったのは、言うまでもない。
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