Snow Drop Trigger
「それは、……『オウノメ スバル』なのか?」


俺と全てが酷似したあの人物の名前を挙げた瞬間、春也君は真面目な顔付きになった。

真面目な顔付きというより、表情が固まったと言った方が良いのかもしれない。


「……スバル様は、そんな人ではありませんよ」

「スバル様って……」


様付けかよ。

どれだけ春也君が彼を信仰してるのかは知らないが、俺に暴言吐きまくった彼をどう頑張っても信頼出来ない自分が居た。


「でも俺に『邪魔』だの『勝手に死ね』だの言ってたけど?」

「あれはスバル様なりの優しさですよ」

「…………優しさ?」


あの言動が優しさなのか。

俺はどうポジティブシンキングしても、その考えには到底至らないだろう。


「それに、スバル様は"アザミ化"を浄化する術を持ってらっしゃるのです。
勿論正恭君、君もです」

「…………え?」


春也君は表情を変えぬまま俺の目の前までやって来て、俺が身に付けていた雪の結晶のネックレスを指差した。

このネックレスは、涼弥に誕生日プレゼントに貰ったもの。

そして確か、彼も全く同じものを持っていた。


「正恭君。
君がもし世界を救いたいのなら、これを使うといいよ」


そう言ってネックレスを指で優しく弾いた後、その場を後にする春也君。

その後姿を追おうとするも、先に出たのは声だった。


「春也君」


ピタリと止まる春也君だが、こちらを振り向こうとはしなかった。

俺はそんな彼に、疑問を投げかけた。


「何でいつも俺と会う時、秋子さんの……、いや、女子の制服着てるんだ?」


その言葉を聞いた春也君はいきなり振り返り、寂しい感情を含めた笑顔を浮かべた。


「僕は僕であり、彼女は彼女。
正恭君はそう思うかい?」

「え?」

「でも僕は彼女であり、彼女は僕なのさ。
だから僕はこんな格好も出来る」


春也君はそう言い残し、その場を後にした。

つまり、どういう事だろう。

春也君は春也君じゃないのだろうか。

春也君は秋子さんで、秋子さんは春也君なのか?

絡まる思考を止めたのは、店内のガラスが派手に割れる音と人々の悲鳴だった。
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