コワメンとマドンナ
「でも彼女、大企業のご令嬢でしょう。結納までに一波乱ありそうですね」
まず渡辺さんの両親からの反対があるだろうし、世間からも非難されるだろうし…。
妄想の闇に呑み込まれる小柳を置いてきぼりにして、俺はさっさと箸を急がせた。
大企業のご令嬢とは単なる噂に過ぎなかった。
一体そういう噂は誰が言い始めるのだろうか。
カオルちゃんは世間知らずなお嬢様だったため、両親の言いつけでわざわさ平凡な公立高校に裏道入学したんだ。
通学は高級車で送り迎えしてもらうが、お嬢様だということがバレないように途中から歩いてくる。下校の際、彼女が取り巻きを途中で振り切り一人で颯爽と帰って行くのはその為だと。
何人か渡辺カオルの後をつけ、彼女が本当に大企業のご令嬢か調べようとしたことがあるらしい。だが、誰も彼女の家を見ていない。確かに彼女の後ろを歩いていたのに、唐突に姿を消してしまうのだ。
大企業だから敵も多い。娘に危険が及ばないように渡辺カオルの父は彼女の影武者を雇っているんだ。
噂は気味が悪いほど大きく膨らんでいく。