コワメンとマドンナ
でもその日はなんだか気になってしょうがなかった。
彼女が通りすがった時にフワッと匂った女の子っぽい香や、すいませんと言ったその声がなんだか知っているような気がしたのだ。
それよりも、彼女が俺をじっと見ていたように感じたのだ。ほんの数秒のことだったけれど。
もしかしたら彼女は俺を知っているのかもしれない。まぁ、ある意味有名人だから嫌でも顔を覚えているのかもしれないけれど。そしてなにより、俺は彼女を知っているのかもしれないとふと思った。
「もんげんー!とけいー!見てみなさーい!」
後ろで叫ぶ女の人の声がしたのでチラリと振り向いた。赤いチェックのエプロン姿の女性が、自転車の彼女と同じに髪を一つにまとめた女性が、公園で鬼ごっこをしている子どもの一人に向かって叫んだのだ。
すぐに男児が女性に近づき、つられて他の子どもも自転車にまたがったり、駆け足で公園を出た。
バラバラと逃げ出した子の一人が俺を追い越し、その女の子が、俺の顔をチラリと上目遣いで覗いた。
とたんにいたずらっ子の面立ちの顔がひきつり、青くなり、急ぎ足で駆けてゆく。
ふぅ、一日が終わるのだ。
ニコッと試しに笑って見て、自分がどんな顔になっているか想像して直ぐに止めた。