Realtime:kiss
「ほら、貸してみろ」いつの間に来たのか、碕岡蒼佑が私の手から鍵を奪い取る。

っ・・・・


カシャン



「じゃあな、じゃじゃ馬のなぁおちゃん」


エレベーターの方へ歩きながら左手を上げ去っていった。





乱暴にドアを開け、靴を脱ぎ、そのまま洗面所へ向かう。


蛇口をひねり、お湯になるまで待てず、冷たい水で顔を洗う。


濡れたまま、鏡を見ると、顔はまだ赤かった。



まだ酔いが残ってる?

ちがうよ、そんなんじゃない。

この顔色はアイツのせいだ。


「最低・・・」

一つ呟いた。



あの男は一体何を考えているのか・・・

さっきだって、私が部屋に入るのを確認して去って行った。

ちゃんと気配りのできる男・・・


だけどほぼ初対面の私の唇を奪った失礼な野蛮な男。


湯船に浸かりながら考えるが、意図がつかめない。



奈津紀と付き合っている山中さん、一体どういうつもりで私を碕岡蒼佑に会わせたのだろう。

ダメだ、考えても答えなんて出るわけがない。


数時間の間、時間を共有したに過ぎない、全く知らない人の考えなんて、私に分かるはず無い。


私はそう、無理矢理結論付けて、静かに目を閉じた。






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