アネモネの丘
お兄様は昨年まで視察という名目で三公国を回っていた。お兄様の事だから遊びに行った訳じゃないでしょうけど、お兄様だけずるいわ。私だって外の世界を見てみたい。
遊び人の騎士バジルが一緒だったから変な虫がついてこないか心配だったけど、見たところ大丈夫で安心した。
「お兄様、ルチアです」
お兄様の部屋の前に来ると、ノックをして呼びかけた。少し待っていると、ドアが開きお兄様がどうぞ、と微笑む。妹の私から見てこんなに魅力的なんだから世の女性にとったら相当な憧れの存在だわ。
私の髪の毛は桃色がかった金色なのに対して、お兄様は完ぺきな金色。碧い眼に鼻筋の通った麗しい顔立ち。身長なんて私の頭二つ分位高くて、筋肉の程よくついた良い体をしている。
私が妹じゃなかったら見とれて動けないわね。昔から見てきてるから大丈夫だけど。
「なんか、今更だけど花楓が興味無いのが悔しくなってきた……」
花楓が興味無いのがうれしい反面、こんな自慢の兄に興味が湧かない花楓は相当な変わり者だって感じる。
「花楓?」
「私の学友なの」
「お前に友達なんているのか」
「失礼ね!私にだっているわよ。城下の宿屋の娘なの」
まあ、正直花楓みたいな友達が出来るなんて私自身考えてなかったけど。
花楓は特別だもの。
「ああ、そういうことか。どこかの令嬢の友達でもできたかと思ったよ」
お兄様は私の頭を優しく撫でると笑った。私に絶対そんな友達が出来ないと思って面白がってるのが腹立たしい。時々お兄様は意地悪だ。
「それにしても、珍しい名前だな」
「ええ、五年前に異世界から来たのよ。今ではすっかりこの国に馴染んでるわ」
「五年前?……そうか、よかったな。いい友達に出会えて」
お兄様が一瞬、物凄く驚いたような複雑な表情をした。でも、すぐに元の表情に戻ったから私はあまり気にならなかった。それより、本題を切り出さないと。