アネモネの丘
座って会場の中を観察する。楽しそうに会話している男女、優雅に踊る男女。みんなこの日の為にドレスをそろえて着飾ってきたんだ。今この時間は身分なんて関係ない……。
ルチアと私は王女と一般市民だけど友人。男女の関係になるとまた違うのだろうか?そんなに身分が関係するのだろうか?
舞踏会に来た女性の中で何人の人がルチアの言っていたように、王子様目当てできたんだろう?
そんなに高嶺の存在に恋い焦がれる乙女の心情をぜひ知りたい。
「こんばんは、黒髪のお嬢さん」
ぼーっとしながら人間観察をしていると、話しかけられた。
話しかけないでオーラを出し忘れていたようだ。
「こんばんは……」
男の人に話しかけられるのに慣れていない私は俯いたまま挨拶をした。
おじさんとかならお手伝いの時に絡まれるので慣れてるけど、年齢が近い人に話しかけられるのは慣れていない。こういう場だし。
「楽しんでる?」
明らかに楽しんでないだろう。と頭の中でツッコみを入れると自然と力が抜けた。ありがとう、見知らぬ人。ボケてくれて。
顔を上げて声の主を見ると、赤い髪色をした男性だった。勿論、目元は仮面で見えない。でも、雰囲気でわかる。この人は俗にいう美形であると。
「そんな浮かない顔しないでさ、一緒に踊ろうよ」
今どういう顔をしているのだろう?知らないうちにすごい嫌そうな顔をしていたかもしれない……。
笑顔、笑顔。困った時でも笑顔は忘れちゃだめだ。
「あ、いえ……私はいいです。お誘いありがとうございました」
私は微笑んで断った。今踊ったら絶対にヘマする。とりあえず落ち着きたい。
ルチア……早く戻ってきて!
そんな私の願いなんて叶う筈なく、ルチアは戻ってこない。強行突破しかない……。
「ちょっと失礼します」
私は赤髪の男性の横を通り抜けようとしたが、腕を掴まれて抜けることができなかった。