アネモネの丘
結局、逃げ出すタイミングが見つからず少し話し込んでしまった。と言っても、金髪の人が話してくれるのに相槌を打っていただけだけど。
私が踊るのを嫌がっていたのを知ってか知らずか、彼は誘ってこなかった。
本当にいい人なんだろうな……。
でも、そろそろ帰りたい。私なんかと話してるより、会場の中で綺麗な女の人と踊りたいだろうし。私がいるからここから動けないのかも。
「あ、私そろそろ失礼します……」
私は話が途切れた瞬間を見計らって、慌てて立ち上がると走り出そうとした。
しかし、今日の私がいかに動きにくい服装をしているのかを考えていなかった。ヒールに慣れてない私はバランスを大きく崩した。
倒れる、恥ずかしい……と思った瞬間抱きとめられた。さっきの金髪の人だ。
お礼を言って離れようとした瞬間、金髪の人に頭突きを食らわしてしまった。私のバカ!失礼すぎる!助けてくれたのにわざとじゃないにしても、攻撃してしまうなんて!
しかも、その反動で私の仮面がカタンと落ちる。
地面を見ると、二つの仮面が落ちていた。
「え?」
私が顔を上げると、至近距離に金髪が見えた。金髪の奥に見えるのは鼻立ちがくっきりした麗しい顔だった。吸い込まれそうなくらい綺麗な碧眼を思わず見つめてしまう。
どこかで見たことがある気がする。どこで?考えても浮かばないけど、昔どこかで出会っていると直感した。でも、どこでかはわからない。
その人もびっくりしたのか、少しの間二人して動けなかった。
「す、すみませんでした!」
先に動いたのは私だった。私は慌ててその人の腕の中から抜けると、真っ先に彼の仮面を拾って渡した。私はただの一般市民だから顔なんて見られてもいい。
でも、きっとこの人はそれなりの階級の人だろうから駄目だ。
仮面を手渡すと、私は自分の仮面を拾って頭を下げてから逃げるように駆け出した。
全速力で走る。
全速力で走っても彼の顔が頭から離れなかった……--。