アネモネの丘
Chapter 1:Encounter
私語り
私が日本という国からレイティス王国に来たのは今から五年ほど前のこと。私が十歳の時のことだ。
レイティス王国の配下であるレイチェル公国の海岸に打ち上げられた私は、王都で宿屋をしていたディルクさんとその妻であるエマさんに拾われた。結婚記念に旅をしている途中だったらしい。
二人は得体のしれない私のことを本当の娘のように可愛がってくれ育ててく
れた。
エマさんは元々子どもを産めない体で、私を神様がくれた贈り物と言ってくれた。
決していい人ばかりではない世の中でこんないい人たちに拾われた私は幸せ者だ。
魔物だっているし、盗賊・海賊だっている。なぜ私が異世界に飛ばされてしまったのか理由はわからないけど、神様はいると思った。
レイティス王国に来てすぐはわからない事ばかりで戸惑ったが、さすが若いだけのことはあった。半年ほどで順応し二人の切り盛りする宿屋≪ブルーム≫の手伝いをすることができるようになった。
元の世界に戻りたいと思ったこともあったが、正直ここにきてからの生活の方が印象的で充実しているから戻ろうとは思わなくなっていた。
この世界にいていいのであれば、ずっとこの世界で生きていく。
でも、いつこの世界からいなくなるかわからない私はこの世界で大切なモノをできるだけ増やしたくない……。