アネモネの丘
自室に戻ってベッドに入ったのはいいが、眠れない。すでに二時間以上はベッドでゴロゴロしているのだが、一向に眠れる気配がない。私はベッドから出ると窓を開けた。若者の声が聞こえる。みんな帰る時間なのだろうか?
若者の声を聴きながら私は空を見た。暗闇に光る大きな月。元の世界の月もこんなに大きかっただろうかとよく考える。こんなに月に圧倒された覚えはない。
「水でも飲もうかな」
私は調理場に向かうとエマさんとディルクさんはすでに寝た後だった。もう、家に宿泊する人は帰ってきたってことだ。水をコップに注ぐと、宿屋のカウンターに座って一息ついた。
眠れないときはいつもここに来る。食堂や酒場も兼ねているからだいたい人で賑わっているけど、一時過ぎたらもう誰も居なくなるっているのがまた違う雰囲気で好きだ。
宿屋の入口のドアが開いている気がして何となく開けると、本当に施錠していなかった。いつもならしっかりディルクさんがかけるのに……と思いながら、何となくドアを開けると向かいの家の前に人が立っていた。見たことがあるような……。
「レスター?」
私が声をかけると、すごい勢いでこっちを向いた。
「……花楓か……」
やっぱりレスターだった。向かいのおばさんの息子で私のこっちに来てからの幼馴染というやつ。よく遊んだけど、三年前にブルク公国の学校に行ってしまってずっと会っていなかった。
「お前、びっくりさせるなよ……」
「ごめんごめん。帰ってきてたんだ?」
「今帰ってきた。それにしても……」
レスターは私をじっと見てきた。何かおかしいのだろうか?
「でかくなったな」
「……一つしか違わないけどレスター、おじさんくさい」
そりゃあ背も伸びたし私だって成長する。三年もたっているんだし。
変わらない方がおかしい。レスターだって三年前より体つきもがっちりしているし、背も伸びた気がする。顔つきだって前よりしっかりした感じになっている。
「お前なあ……。って、お前こんな時間にどうしたんだよ……危ないだろ」
レスターはため息をついてから言った。
確かに、夜になれば酔っ払いとかがうろつくし不審者だっているかもしれない。でも、少し外を見るくらいなら別に大丈夫だと思う。
魔物が出れば別だけど。
「ただ外に出てみただけ。レスターは……なんで帰ってきたの?」
もう学校を卒業したはず。今はどこで働いているのだろうかと疑問に思った。一度もこっちに帰ってきてなかったと思うけど。