アネモネの丘
 私は一人ルチアから離れて少し庭園を回らせてもらった。本当に小川があった。しかも、小魚までいる。本当にすごい!
 ひとしきり回って感動しながら私はルチアの所に戻ってきた。

「ねえ花楓、ちょっと話聞いてもらってもいい?」

 ルチアは静かにそういうと、近くのベンチに座った。いつもと違うルチアの雰囲気に少し不安になった。何か色々考えていることはあるだろうけど、いつも私に相談はあんまりしない。王女だし、一般人に相談なんてできないとわかっているけど。

「私……学校を卒業したらヒアスに行くの」

 私は驚きはしなかった。王国と周辺公国の絆を保つために婚姻関係を定期的に結ぶことは国民誰もが知っていること。ルチアだって例外じゃないことを私は聞いていた。聞いたといっても、本人じゃなくて宿屋での噂話として。その噂は間違いじゃないだろうって皆が言っていた。
 ヒアスは緑豊かで資源も豊かな国。現君主は二十五歳のアーチスト公。彼はとてもやり手だと聞いた。何がどうやり手なのかは私にはわからなかったけど。性格的には、とても温和らしい。

「そっか……もう一年もないんだね」

 正直、寂しい。でも、学校を卒業したら絶対ルチアに会えないってことは分かっていた。学校を卒業したらルチアは必ず結婚しなければならないってわかっていたこと。だから、ルチアといられるこの三年間を大切にしてきた。

「ええ。それで、明日……アーチスト公が来るのよ。会うのは十年ぶりくらいなんだけど……あんまり好きじゃないのよ」

 ルチアがため息をつきながら言った。さっきまで一人でしんみりしていたのが少し馬鹿らしくなるほど、ルチアはすごく嫌そうに言った。しんみりした感じを返してほしい。

「なんで?」
「とても優しい人らしくて……」
「いい事でしょ」
 
 私が言うと、ルチアは首を振った。ルチアは優しい人が嫌いなのだろうか?優しくないより優しい方が絶対いいと思うのだけど。

「その優しさを前面に出してる人って、本性は違う気がするのよ」

 ルチアはそういうと、またため息をついた。確かに、そんな気がしても仕方ない気はするけど、ルチアは考えすぎな気がする。
「ルチア、考えすぎ!いいじゃない、本当でも本当じゃなくても。ルチアは奥さんになるんだから優しさを向けてもらえるよ」

 なんか、ルチアがこういうことに悩む人って知らなかったから新鮮。ちょっとにやけてしまう。笑ったらだめだ……ルチアに何か言われる。最悪、手が出る。

「……花楓、楽しんでるでしょう?」

 ばれていたようだ。馬鹿正直な私のばか。


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