アネモネの丘
ルチアに必死に弁解した私は、何とかルチアの機嫌とりに成功した。ルチアもなかなかの性格をしているから、似非優しい人でも全然やっていけると思うけど。
「そういえば花楓、最近いいことあったでしょ?」
「いい事?……別にすごいいい事なんてなかったけど」
毎日おいしいものが食べられるとか、毎日学校行けるとか……普通にいい事しかない。毎日変わらない生活をしていたつもりだし……。
「三カ月前とか」
「三カ月前?……舞踏会?」
舞踏会は良い事の反対な気がする。……私にとってはそんなにいい事じゃなかった。中にはなぜか舞踏会で出会った人と恋人同士になった人もいるらしいけど。仮面付けてるのに、なんで恋人同士になれるのか不明。仮面をうっかりとっちゃったとか?私もうっかり取れちゃったけど……。
「それでもいいけど、違う」
「舞踏会は私にとったらあんまりいい思い出じゃないよ」
「……だから、ほか!」
ルチアに怒られた。さっきの乙女モードのルチア様はどこかに行ってしまったみたい。
「あ、丘に行ってきたよ。ずっと行きたかったとこ」
私が思い出していうと、ルチアは途端に笑顔になった。どうやら、ルチアはこれを望んでいたらしい。けど、それで話を終わらせようとしたのに、ルチアは続きをと急かす。
「……おわり」
ずっと行きたかった場所に行けたからすごいいい事だった。あの後は一回も行けてないから、そろそろ時間を見つけて行こうかなって思ってる。
「……花楓、あんたにはがっかりした」
さっきとは一転してルチアは不機嫌になった。正直にちゃんと言ったのに!
丘……そう言えば、フィオレちゃんとフェルさんは元気かな?また会えるかなぁ。ルチアに話してないような気がする。せっかくだから今話そうかな。舞踏会で助けてもらった人と会ったって。
「そういえば、あの丘でね……」
「ルチア?」
私が話そうとすると、入口の方から声がした。聞いたことのある声。振り向いて声の主を見ようと思ったけど、ちょうど植木が邪魔をして私の位置からは見えない。
「お兄様!ちょうどいい所に」
ルチアはそういうと、お兄様の所へ行ってしまった。お兄様ってことは……王子様?
私は慌てた。王族のプライベートスペースなのだから王族の誰かと会う可能性はあったけど、まさか巷で人気のフェルナンド王子と会うなんて。まだフェルナンド王子は私に気付いていないみたいだから、逃げようとふと思った。なんで逃げようと思ったのかはわからない。