アネモネの丘
「さすが、王子はスマートだね」
私はバジル様の言葉が一瞬頭に入ってこなかった。王子?
そう言えば、なんでこんなところにフェルさんが?身分が高い人だろうと思っていたけど、こんなところにいるってことは……。
私はフェルさんから慌てて離れると、ルチアを見た。ルチアはただ笑っている。
「花楓、紹介するね。……私の兄のフェルナンド兄様」
今までフェルナンド様にしてきた無礼な振る舞いが頭をよぎる。仮面舞踏会で仮面を思わず外してしまったこととか……そういえば、フェルナンド様の仮面が外れて大騒ぎになったって言ってたような。私のせいだ!あと、あの丘でも普通に会話をしてしまったし……私のバカ!なんでフェルナンド様の顔を遠くから見たことあるはずなのに覚えてなかったの!
私は思わずルチアの後ろに隠れてしまった。今までの無礼をどうやって償えばいいんだろう……。
この王国を出ていくだけではあまりに軽すぎる……そうなると、どうしよう。
「ちょと、花楓?」
「ルチア……私、死んでお詫びするしかないかも」
私が言うと、ルチアはおかしそうに笑った。それはおかしそうに。今まで幾度となく私を笑うルチアを見てきたけれど、今回の笑いは一番私を笑っている気がする。
「花楓、あんたは物事を大きく考えすぎよ」
ルチアはそういうと、フェルナンド様の方を向いた。フェルナンド様を見ることができない……私が見るには恐れ多い。また会えるといいな、と思ってはいたけど、王子と知ってしまうと……。
「お兄様、花楓がそういってますけどどうしましょう?」
フェルナンド様は苦笑すると、私の方に近付いてきた。ルチアに近付いたのかもしれない。私はルチアの後ろにいるから。
「隠れていないで出てきてくれないか?俺も詫びをしたい」
そういうと、ルチアが私の前から居なくなってしまった。ルチアの動く方に私も動けばいいだけだけど、動けなかった。