アネモネの丘
私はフェルナンド王子と対峙した。フェルナンド王子が敵というわけではないけど、それくらい私は緊迫していた。
「あの時は王子であることを黙っていてすまなかった」
「いえ、無暗に王子ですなんて自己紹介なんてできないですよ!私が盗賊だったら危ないですし」
あんな場所だし、もし盗賊だったら王子と知って襲うかもしれない。いくら平和な国だろうと王族を狙う人はいるはず。
「いや、そういう意味で言わなかったわけじゃないんだが……まあいい、許してくれるか?」
私は縦に頭を振った。許さないわけがない。それに、別に怒ってないし……ただ、私が無礼をしてしまったから謝りたい。
「私の方がすみませんでした……」
私が頭を下げると、フェルナンド王子は私の頭を撫でた。
「いいさ。ルチアと同じで俺も王子だからって人に頭を下げられるのは好きじゃない」
フェルナンド王子はそう言って苦笑した。
ルチアが言っていた。王族は神様じゃないって。同じ人だからかしこまることは無いと。だからって、無礼なことはできない。国をまとめていく人なんだから余計に。
「気にしないでくれないか?俺が楽じゃない」
「フェルナンド王子……」
噂には聞いていたが、フェルナンド王子はとてもできた人だと身をもって知った。この人が王になればこの先何年もこのままの平和なレイティス王国のままだろう。
「花楓、お兄様もこう言ってるし、気にしないで」
「ルチア……。フェルナンド様、ありがとうございます」
私は頭を下げると、屋上庭園を出ようと出入り口に向かった。こんな身分の高い人ばかりの場所にいるわけにいかない。所詮、私は一国民なんだから。そう思うと、ルチアがとても遠くの人に感じた。学校では何とも思わないのに……。むしろ、私は国民でもないかもしれない。この国で生まれたわけじゃない。
「ちょ、花楓?」
ルチアが私を呼び止める。よく考えたら私一人でうろうろしたら駄目だった。捕まってしまう。
「ルチア……一緒に来てもらってもいい?」
なんて恰好がつかないんだろう……いつもこうだ。