アネモネの丘

 宿屋の食事作りでも大変なんだから、何百人いる騎士に食事を提供するとなると……想像できないくらい大変なんだと思う。それこそ、ほぼ寝れないくらいに。

「新しく雇った方がいいんじゃ……。私は学校に通ってますし……」

 その方が絶対効率もいいと思う。私が手伝うって言ったって、学校終わりとか休みの日くらいだ。しかも、私は宿屋の手伝いをしないといけない。

「そうなんだけどね……募集しても、全然役に立たない子ばかりで。役に立つ頃に辞めていくし……」 

 アルバさんは少し毒舌らしい。見た目に似合わず。

 学校に通って家事経験をあまりしなかったような子が騎士目当てでやるんだろう。そりゃあ大変だろうな……夜は遅いし朝は早いし。いくら騎士さま目当てだからって無理なのかもしれない。

「だから、君ならいいと思って。見た目も合格だし」
「バジル、ふざけない。ごめんなさいね、気にしないで」

 アルバさんの容赦ないツッコみに私は感動した。こんな強い女性になりたい。

「軽く手伝う程度でいいの。あなたのお父様には私から話すから」
「ディルクさんに?知り合いなんですか?」

 私が言うと、アルバさんは頷いた。ディルクさんとはディルクさんが騎士時代からの知り合いらしい。今でも時々宿屋に遊びに行って話すことがあると教えてくれた。私は会ったことない。ちょうど私学校に行っている時間帯に来るらしい。一番時間が開くから。

「役に立つかわからないですけど、手伝うくらいなら……」
「本当に?嬉しいよ、君みたいな可愛い子のご飯が食べれるなんて」

 そういうと、なぜかバジル様が私の手を握って喜んだ。やっぱりやめた方がいいのかな……。そんなバジル様の腕を勢いよく叩くと、アルバ様はため息をついた。

「バジル、いい加減にした方がいいんじゃないの?」
「仕方ないって。これが男の性だから」

 アルバさんはまたため息をつくと時計を見た。

「もうこんな時間。じゃあ、また時間が出来たら調理場を覗いてね」
そういうと、急ぎ足で部屋を出て行った。本当に私なんかが手伝いに行っていいんだろうか……?
「というわけだから、よろしくね」
「はあ、決まった以上やりますけど……」

 バジル様は私から離れて私の向かい側のソファーに座った。私はまだ帰っちゃいけないらしい。早く帰らせて……。



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