アネモネの丘


 宿屋の玄関を出ると、前にあるお店のおばさんに出会った。

「おはようございます、おばさん」
「おはよう、花楓ちゃん。いい天気だね」
 おばさんは私によくおやつをくれたり、色んなところに連れて行ってくれた。おばさんの息子が私の一つ上だからついでにって言えばついでに。
 そういえば、その息子のレスターは今ブルクの学校に行っている。騎士になるつもりなんだって。ディルクさんに暇なときは剣の稽古してもらってたから……それなりにできるのか?強いのかはわからない。ここ三年あってないから知らない。

「そういえば、舞踏会にはでないのかい?」
 おばさんは唐突に言った。
 最近、知り合いの人みんなに言われる。言われすぎてうんざりするくらい。学校でも休み時間は舞踏会の話で持ちきりだし……。他の話をしているのは私とルチアくらい。
 ルチアは私がその話を嫌がるのを知ってるからまだ言ってこない。そのうちその話題出るだろうなあ。

 舞踏会は毎年春に開催される。王都は若い人であふれて賑やかになる。普段でも賑やかだけど、その倍くらい。

「忙しいし……宿屋も忙しい時なので」

「勿体ない!あと一年で学校も卒業だろう?早く結婚相手見つけないと」

 学校には十四歳に入学して三年勉学に励み、卒業することになっている。強制ではなから家の手伝いが忙しい人とか、兵士になりたい人は通っていない。兵士になる為にはレスターみたいにブルク公国の学校に通わないといけないらしい。よくは知らないけど。


 そんな感じで、大体の人が十八歳になる歳で卒業して二十歳には結婚してる。

「まだ早いし……宿屋の仕事の方が大事なんで……」
「その宿屋の為に早く結婚しないと」

 ……埒が明かない。早く抜け出さないと遅刻する。
「あ、家のレスターとかどうだい?」
 レスターがブルクに行ってから、おばさんはよくその冗談を言うようになった。兄妹みたいなものだから絶対ないのに。


「あー!遅れちゃう!おばさん、いってきます!」

 私は半ば強引におばさんから抜け出した。いいおばさんなんだけど、たまにおせっかいすぎる時があるから要注意。



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