君が想い出になる前に
ーー「あ、まずい。
ごめん、わたしのピッチだ。」
お母さんからのメール。
「麻央、ピッチ持ってんの?」
「あ、うん。うち親共働きだから
持たされてる。」
お母さんへのメールの返信を打ちながら
答えていると
目の前に黒くてごつごつした手が
すっと伸びてきた。
「ーーえ?なに?」
「貸して。」
そう言ってわたしからPHSを取り上げ
何か打ち始めた。
「俺も持ってるから番号入れとくね。
うちのクラスのやつ、まだ俺しか持ってなかったから
嬉しいよ」
惣右介が笑いながら言った。
(嬉しいって、なにが?)
惣右介がぽーんとPHSを投げ返してきた。
「いつでも電話してね、まーお♡」
「ちょっと、危ないーー」
走り去って行く惣右介に叫びながらも
わたしはなんだから顔が熱くなっていた。