威鶴のmemory
困った。
だって私の作ったチョコレートと、毎日お弁当を作って来るようなトーマのチョコレート。
絶対トーマの方がおいしいに決まってる。
チョコレートを目の前にして固まる私を見て、トーマは異変に気付いたらしい。
「どうした?」
「……あ、いや、その……べつに?」
逃げたい。
だって……わからないか、トーマみたいな男に、この乙女心は。
まさかこんな形で打ち砕かれるとは……。
いや、でも諦めたらだめ。
だって、材料を用意してくれたのは、優雨さんなんだから。
「ととととととっ……トマト!」
「はぁ?」
「あ、ちがっ、トーマ!」
勢いあまってトーマがトマトになっちゃったじゃないか!
冷静になれ、自分。
「……どうした?大丈夫か?」
「だ、大丈夫だから」
さぁ深呼吸をして落ち着くのよ依鶴。
す―、はー、……よし。
「トーマに、渡したいの!」
トーマの目をまっすぐ見て、あたしは訴えた。