威鶴のmemory

「やだ、軽くよ、軽く」

「いや、お母さん、右手に全力込めてたの私にもわかったけど。お父さんよろめいたし」



それは『軽く』とはいいません。

力いっぱい……トーマのために、動いてくれていたんだ……。



「そんなことより、続きが聞きたいわ、透眞」

「……あぁ」



苦笑いをするトーマは、今の一瞬でお母さんへの見方が変わったらしい。

私も変わった。



「あー……家族をどう思ってるかっつったら、今の気持ちはまだ久しぶりすぎてわかんねぇ。遥香は母さんみてぇで、叶香はいい喧嘩相手。友達に近い」

「うん」

「母さんは……高校の頃は、うぜぇって思ってた。でも結局あの頃は環境全部がウザくて、それを引いたら……いつも心配かけてるの、わかってたけどやめられなかったな」



『ウザイ』と、そう思っていた裏側で、ちゃんとトーマもお母さんを見ていた。



「困ったような、心配そうな目、されたくなかった。させてるのは俺だったから、余計にイラついた」




< 16 / 111 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop