威鶴のmemory
「やだ、軽くよ、軽く」
「いや、お母さん、右手に全力込めてたの私にもわかったけど。お父さんよろめいたし」
それは『軽く』とはいいません。
力いっぱい……トーマのために、動いてくれていたんだ……。
「そんなことより、続きが聞きたいわ、透眞」
「……あぁ」
苦笑いをするトーマは、今の一瞬でお母さんへの見方が変わったらしい。
私も変わった。
「あー……家族をどう思ってるかっつったら、今の気持ちはまだ久しぶりすぎてわかんねぇ。遥香は母さんみてぇで、叶香はいい喧嘩相手。友達に近い」
「うん」
「母さんは……高校の頃は、うぜぇって思ってた。でも結局あの頃は環境全部がウザくて、それを引いたら……いつも心配かけてるの、わかってたけどやめられなかったな」
『ウザイ』と、そう思っていた裏側で、ちゃんとトーマもお母さんを見ていた。
「困ったような、心配そうな目、されたくなかった。させてるのは俺だったから、余計にイラついた」