威鶴のmemory


喫茶店に入って来た遥香は俺の目の前に来ると、両手で頬をビンタした。

いい音と共に、両頬に痛みが走る。

ピリピリとしびれた感覚、そして──ぎゅっと温かいものに包まれた。

遥香に……抱きつかれたということに気付いたのは、「バカ……」と耳元で言われた時だった。



久しぶりに会った遥香に、目が潤みそうになる。

最悪な形で家出をして来たのに、俺を嫌ってもおかしくないのに……なんで抱き締めてくるんだよ。



「遥香」

「……」

「座れよ」



ぐすっ、聞こえた音に、俺の心臓が跳ね上がる。

泣いて……る?のか?

途端に俺は焦り出す。



だって女を鳴かせることはあっても泣かせた事はない。

勝手に泣き出す奴を見ていても何とも思わないが、泣かせたとなると焦る。

だってこの涙は俺のせいだってわかってるんだ。
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