威鶴のmemory
ママは、赤ちゃんと引き換えに亡くなった。
パパは、私をママのいる病院に預けてから、荷物を取りに帰って……戻らなかった。
交通事故、だった、らしい。
もしあの時、私も一緒にいたら、その事故に巻き込まれていただろう。
そしたら、赤ちゃんはこの世に一人ぼっち……その後の人生も、再会も何もなかっただろう。
そう考えると、不幸中の幸いなのか。
わけもわからないまま、私と赤ちゃんは施設に預けられた。
「お名前は?」
「ゆう。優しいに雨なの」
「赤ちゃんの名前は……」
「ないよ。ないの。呼べないの」
知らない女の人。
白い服で、頭にも白い帽子をかぶっている、女の人。
質問には答えていたけれど、頭の中は空っぽだった。
だって信じられなかった。
この待ちに待った幸せな日に、そんな……絶望的な事があるはずがない。
私は、わけもわからないまま、パパの友達だったという人に預けられた。
というより、養子になっていた。