W-アイ ~君が一番に見たいもの~ 【完】
§ 奇跡 §
深夜11時――
今日もまた始まった。
「おい、坊主。起きてるか?」
「………」
「なんだよ、てめえ、寝たふりなんてかましやがって!起きてんだろ?おい!」
――うっせえな。ったく。
俺は、寝返りを打った。つっても、どっちを向いてみたところで、景色が変わることもない。まるで、宇宙に投げ出されたかのように、吸い込まれそうな暗闇。
俺の入院生活は今日で二週間。
高校最後の夏休みを楽しもうとダチとバイクで走り回っていたところ、お巡りに追いかけられた挙句の自損事故。その上どういう訳か目を電信柱にぶつけ、全身無傷のまま両眼打撲。網膜剥離だけは免れたものの。
ったくツイテルのか、ツイテいねえのか。
たまたま、完全両眼網膜剥離の自称ボクサーと同室になり、毎晩、このオッサンの武勇伝を延々と聞かされる始末。
――そんなもんに毎晩付き合ってられるかってんだ。
俺は、ベッドの上で何度もわざとらしく寝返りを打ち、ソイツの声が安眠妨害以外の何でもない事をアピールする。
しかし。
「なんだよ、坊主、一人シコシコとやってんじゃねえのか、おいっ」
と、このオッサン。
「そんなことしてねえよ!」
俺は思わず大声を張り上げた。
「しっ!こらっ。でけえ声を出すんじゃねえ。今晩の夜勤はナス婆だぜ?こんなセンチメンタルな夜にナス婆の顔なんて拝みたくねえだろうよ」
「なにがセンチメンタルだ。つうか、拝みたくても拝めねえっつうの、俺も、オタクもっ!」
両目とも包帯でぐるぐる巻きの二人。
「ああ?そりゃそうだな……、坊主ウマイこと言うな?なかなか面白いじゃねえか」
「はあ?俺はちっとも面白くねえよ!」
一体このオッサンはどんな風貌をしてやがるのか。この包帯が取れて暗闇から解放された暁には、おもいきりコイツの面を睨み付けてやることだけが、俺の唯一の願いだった。