マンゴーにはなれそうもない
何でヤクザの嫁に追われてる最中、
昔の男の事で
イライラしなくちゃいけないのよ。

そう思うとまた何もかも
どうでも良くなってくる悪いタチ。

フウ、と煙草を近くの石で消した。


______ ホントは解らない、

会いたくなかったとは・・云えない。

あたしは甲斐に心底怒ってはいないのだ。

これはミエ?
別れた以上、一応怒って見せただけ?

自分が__________


「冷た・・!」


後首に触れた冷たいものに見上げる。

そこには缶ビールを持って立つ
優弥の姿があった。


「・・・ほら、」

「ありがと・・。」


それを受け取ると優弥は隣に腰を降ろし、
自分のビールら口を着けた。


「髪、切っちゃったんだな。」

「・・・・うん。」

「雰囲気変わった・・前の方が好きだ。」

「_______ そう。」


あたしだって・・前の方が好き。
黒髪の艶々さが自慢だったのに。

優弥に腹を立てても仕方ない。
あたしはビールを開けぬ内に付き返した。


「もう電話もして来ないで。」

「・・・・!」

「許せないなら・・それを貫いて。」


でなきゃ、お互い前に進めない。

立ち上がり
彼の顔も見ずに言葉だけ置き去った。

お互いまだ好きだと解っていながら
距離を保つのは・・辛い事。

やはり会ってはいけなかったのだ。

甲斐は火が熾せてない所で
一緒になってウチワを仰いでる。

あたしはそれを横目に
駐車場へとさっさと歩いて行った。

和気あいあいと楽しめる筈がないから。

タクシーでも呼んでホテルに帰りたいが
此処の場所すら解らない。

バカだ。なんでついて来た?

自分に嫌になりながら、
あたしはとうとう
緩やかな山道の下りを歩き出していた。

下り坂を降り始めると
あたしの歩いていく姿は見えなくなる。

黒のラウンド・ハットを目深に被り直し
また前を見て歩を早めた。


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