マンゴーにはなれそうもない
「尾行てたんですか・・?」


『バーカ! ! オマエ今、風呂場だろ!?
声の響き方でバレバレだっつうの!』

「あ・・・。」


エコーか・・。
しまった、トイレにすりゃ良かった。

だが彼は特に怒った様子もなく
いつもの飄々とした口調で楽天的だ。


『・・ふーん、じゃあ仕方ない。
残った荷物は店に持ってってやるよ。』

「すみません・・。」

『どーせ、瑠璃さんから強引に
携帯奪って掛けて来たんだろうが?』

「・・・。」


クソ、なんでそこまでお見通しなんだ。
アンタやっぱり
どっかで見てるんじゃないのか?

俺は浴槽に座ったまま
思わず天井に目だけでキョロキョロした。


『解りやすいヤツだ。・・くれぐれも
彼女の事、頼むぞ。油断するな・・?』

「ええ・・・。」

『俺にもな。フフ』


ツー・・

向こうから切りやがった・・。
心中穏やかではない表われである。

しかし認めたくはないが、甲斐は
この短い間に俺より彼女を理解している。

"秘密"という言葉もそうだ・・。
彼女は今、何から逃げているのか。

誰にも云えない様な、
知られたくない過去の
一つや二つ、誰にだってある。

俺の知らない過去があって当然・・。
だが、家には帰れない・・?

彼女のお姉さんが話に出て来てた、
よほどデリケートな事情なのか。

でも・・
瑠璃は俺が守ってやらなきゃいけない。

甲斐は甲斐でそう思っているだろうが、
けして譲れないのだ。

こんな事になるなんて
夢にも思わなかったけど

彼女をより理解してあげる事で
少しは大人になれそうな気がする。

前は確かに
テンパってたトコも正直あった。

彼女が大人なんで
追い着きたくて焦ってたんだ・・。

しかし今
大人になるのはこの際、置いておこう。


( まず"男"になる事が大事だろ・・! )


ふと壁を見ると、
携帯片手に短いガウン姿の膝を開き
グッと拳を握り締めてるマヌケな男が1人、
でかい鏡に映ってた。

俺ってヤッパ、ガキ・・・。


「ん・・?」


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