マンゴーにはなれそうもない
_____ マンゴーの実は

捥ぎ取るものではありません ____


どこか外国の農園の
悠長なセリフの立て看板を思い出す。

今ベッドでこうして
ようやく満足したかに眠る
優弥の寝顔を見つめながら
白々とした朝を迎えるなんて・・。

あたしはかなり重い体でそこから脱すると
メイクの為に洗面台の前に立つ。

優弥も多少の手加減をしたのか
首から上の痕はあまり目立ってはいない。

服から見える場所には
リキッドのファンデを
指に馴染ませて叩いて隠した。


「_____!」


後に映った彼の姿にドキリとする。

ジーンズだけを履き、上半身裸のまま・・
あたしの携帯を手に開いて見せていた。


「おはよう・・何?」

「これ、もう必要ないだろ?」

「え・・・?」


フォルダに残ってる
洸汰のたった1枚の写真。
それをあたしに突き出してきたのだ。


「消して・・今、俺の目の前で。」

「・・・。」


戸惑いはしない、どの道もう
過去を清算する時期も近づいているから。


ピッ!

"消去しました"


ただ、
彼にそれを強要されて少しムッとした。

いきなりカレシ面を始めた優弥に無言で
携帯を突き返して見せると化粧を再開。

彼もあたしのそんな態度に
機嫌を損ねたことぐらい解った様だ。

特に宥めることもせず、携帯を残し
小さな溜息で自分もまた着替えに戻った。

準備が整い次第ホテルを出たが
車の中でも言葉少ななまま、店に到着した。

いつもより随分
早く着いたので誰もまだ来ていない。


「・・・瑠璃。」


帰り際、ドアの所で立ち止まる彼は
ジッとあたしの瞳を覗き込み屈んだ。

甘く舌を絡ませるキスは切ない吐息
ばかりが漏れ、その心情を語らせた。

心配しているのに優弥は何も聞けない
自分が歯痒いのだろうと・・察する。


「・・さっきはゴメン。」

「・・解ってる・・もういい・・。」

「終わったら迎えに来ようか・・?」


彼は今日休み・・だが、
あたしは首を横に振っていた。

安心させる笑みこそ浮かべて・・。


「平気・・もう家に戻るから。」


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