マンゴーにはなれそうもない


例え、彼を怒らせる結果となっても
あたしは嘘をつかざるを得ない・・。

何だかんだ云っても・・彼が大事だから。


「何かあったら絶対連絡して。」

「有難う、じゃ・・。」


ホッとした笑みで手を放した優弥。

あたしは何故だか、スルリと
解けて行く・・・その指を見ていた。

車に乗り込むまで
ガラス越しの姿に彼は何度か振り返ってる。


( ごめんね、これはあたしの問題だから・・ )


罪悪感に膨らむ空気の中には
不安も含まれてる。だが、独りなら・・
あたしは強く居られる気がしていた。

いつもの長くも短く感じる営業時間、
何変わる事無く店での時間を過ごす。

で・・仕事が終わる頃には
体温が少し下がり・・夕べの所為、
普段使わない筋肉がジワリ痛み出した。

昨日は特別ハードだったから
モップ掛けみたいな造作ない事が応える。

"俺のものでいるって・・約束して"

「・・・・。」

あの時・・
彼は我慢の末にああ云ったのだろう。
不確かなあたしそのものに不安を感じて・・。

まさか、他の誰のものになるつもりはない。

あの返事はけして
苦し紛れにしたものではなかった。



何事も起こらなければ・・

あたしは___

優弥のものでありたいと思った


もし
囲われ女であった過去を貴方が知ったら
こんな女に嫌気が差すだろう・・。

本気になればなるほど
そんな引け目があたしを素直にさせない。

気が着けば
それどころか夕べの事までもう・・
思い出にする覚悟までしていた。


「もしもし、今日、シングルで・・」


あたしが携帯を手にした瞬間、
まだ明るい陽のドア向こうに
影が差した気がしてそちらを見遣る。

あれは・・・どこかで見た・・?

そして時計を見れば閉店15分前・・

パターン的にはもう客が来ないので
すっかり
閉める準備をしてしまっていたのに。

どこかで見たと思うのはきのせいか。
相手は和服姿のお婆さん・・初顔だ。

線が細く、小柄。髪も綺麗に結ってあり
良家の出といった感じ。

ドア越しに目が合うと、
静かに微笑んで入って来た。


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