マンゴーにはなれそうもない
脚元もしっかりしていて
雰囲気は茶道の家元みたいな・・
とてもキリリとしていらっしゃる。


「いらっしゃいませ、申し訳ありませんが
あと15分で閉店なんです。」

「いえ構いません、アイスコーヒーを
頂いたら直ぐ御暇させて貰いますから。」

「少しなら構いませんので・・。」


営業時間の案内はドアの前に書いて
あったが何分、相手はお年寄りだし。

テーブルのイスを引き、座らせると
直ぐアイスの用意をした。


「お待たせ致しました」

「有難う」


ソフトに微笑むとたおやかに会釈。
なんて品の良いお婆さんなのだろう。

それに・・あたしを見る目が
他とは違う気がしてならない・・。


「あの・・以前、
どちらかでお会いしましたかしら?」


あたしはさして減ってもいないお冷を
注ぎ足しながら気になる事を訊ねた。

あくまで世間話程度になるよう・・軽く。

するとそこに意外な間が出来たのだ。

目を伏せて柔らかに微笑むとあたしを
静かに見上げて首を振った。


「あ・・そうですよね、ごめんなさい。」


グラスに流し込むミルクを
ストローで掻き回し、
出窓の花瓶に視線を流してる。

大家さんからのお裾分けの花を
あたしがごく普通に挿したものだった。


「これは貴方が?」

「・・ええ。」

「・・そう。」


・・どうせ個性的ですよ。 ハイハイ

ニコニコとずっとそれを眺めて
他、何も云わないんだもん。
もう下がるしかないじゃない?


「さて・・。」


残ったコーヒーを飲み終えると腰を上げ
懐から小銭いれを取り出してる。

レジに立つときっかり400円頂いた。
そして次に名刺を一枚差し出すのだ。


「一度、見学がてら遊びにいらして。
美味しいお茶でもご一緒しませんこと? フフ」

「はあ・・あ、有難うございました。」

「では・・。」


華道の家元だったのか・・でもこれって勧誘?

ご丁寧にお辞儀をして出て行くお婆さんに
あたしも腰を折って送り出した。


(桜木ハルエ・・桜木・・!?)

もう一度見直した名刺の
その苗字にあたしはギョっとした・・。



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