マンゴーにはなれそうもない
「・・車ですか。」

「本名もね・・?」



要は金を握らせてりゃ、
誰でもがチクってくれるって事だ。

油断と云うより、あたし的には

"もー、来るなら来いっ。"

・・って、気になってたから。



「随分カンジが変わったわ・・。
新しいカレは年下かしら?」

「・・・・ご用件は?」


ムッとするあたしに余裕の微笑み。

あたしは着替え終わると直ぐ近くの
日本料理屋に連れて行かれてた。

個室の座敷でチマチマとした
料理の並ぶ席に面と向かって座ってる。

今でも"姐さん"な筈だが、
屈強なお供達は何処にも見当たらない。

ポンと栓の抜いた音のするビール瓶から
注いで貰った一杯だけを口にした。


「洸汰よ、あれからずっと・・。」

「・・・・・あれから?」


手酌で自分のビールを注いでいた
瑞穂の手がピタリと止まる。

泣きボクロの着いた
綺麗な顔がキョトンとしていた。


「そう・・どうりでね。」

「・・・。」

「なぜ・・貴方を手放したかも知らない?」

「女を全員、整理するって・・。」

「ふふ・・!」


彼女は手の平で目を覆いながら肘を着く。
その様子はまるで泣笑いの様にも見えた。


「確かに他も整理したようよ・・。
真っ先に、貴方をね。」

「・・・・!」

「それを知った時、
貴方を憎いとさえ思ったわ・・私。」

「え・・?」


ワケが解らない・・何言ってるのか・・。

グイとコップのビールを飲み干した
彼女の目尻が濡れている。

瑞穂は小さなバッグから何かを出して
あたしに手渡した・・新聞の切り抜きだ。


「重傷・・彼が・・・刺された?」

「その場所と日付が解る・・?」

「まさか」


ピリリと電撃が
背筋に走ったかの寒気に体が揺れた。

もしもそうなら・・コウちゃんは・・!?


「当時はね、抗争が勃発し始めてたの。
出歩かないでと・・あれほど云ったのに・・。」

「・・コ、洸汰さんは・・・今?」




瑞穂を直視してるあたしの拳は
その返答の恐ろしさに・・
テーブルの上で汗を握り搾っている。




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