マンゴーにはなれそうもない

「今日、無事に帰れたら・・絶対、
貴方に会いに行こうと思ってたんだ。」

「ふぅん・・・。」

「本当だって」


好きな女の前で"怖かった"と
当たり前の弱さを見せる。

あたしは・・素直な男に
優しくしない女でもないらしい。

あんな風に云われたら・・
母性本能も多少擽られてしまう。


「・・・ごめん。」


そして約1分後、
私はようやく解放された。

少し車で走った所にある
気取らないレストラン、

料理を待っている間、
彼はいろんな事を私に話した。


「"バック・ドラフト"って
映画を知ってる?」

「うん、見たよ。」


少し昔の映画で
消防士の兄弟の話しだった。

あの映画に憧れて
消防士になった者は多い。

彼も例外ではなかった。


「・・仕事が好きね。」

「あ・・ごめん。」

「別に謝らなくたって。」


仕事の話になると
食事の手を止めてまで熱弁を振るう。

真面目なタイプではないが
消防士である事に誇りを持っていた。

でもあたしは知ってる。

現実にはそれをアピールして
女を口説いてる消防士は
少なくないって事を。

その職種のアソビ人も
実際に何人か知っていたし。


「そろそろ出ない?」


あたしから言い出したその後、
ドライブがてら遠回りして帰った。

近くに車を止め、降りようと
する私の肩を捕まえる。

迫る顔、
熱すぎる視線、閉じかけの瞼。

やんわり断るつもりで

レジ横から持ってきた旅行のパンフを
絶妙なタイミングで間に挟んでやる。

それにキスさせられた彼が笑い、
更に唇目掛けて襲い掛かろうとする。


「本気で止めて・・。こんな事
するならもう着いて行かないから。」

「・・冷たい女。」

「でしょ・・、
だから他のコにしなさいって・・ア!」


痛いのは・・ただキツク
抱き締められているからではない。

彼の胸の中の弾みが感じ取れた。

その響きをまるで私に訴える様に
顔と耳をその胸板に押し付けてる。


「それ・・もう絶対云うな・・!」


切なそうに願う声が
溜息と共に耳元を掠めていった。



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